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ミライノオトモニターNo.17「つながる、えん。」

大好きなカフェで仕事を始めて、数ヶ月が経った。

お客として行くのと、働くのでは全然違うことはもちろん想像していたつもりだが、やってみると想像外のことも多く、最初はとても戸惑うこともあった。
全く畑違いの職種、久しぶりにまとまった時間の勤務、初めての場所、人。

「新人」という立場にとても久しぶりにつくからだろうか、今までにない発見の連続でもある。
それにより、感心したり時には落ち込んだりすることもあるけれど、それも一つの経験だ、と捉えられるようになってから、ちょっとずつ楽になってきている自分がいる。

その状態と共鳴するかのように、私の周りの空気も楽に解けてきている感覚を感じる。
いっぱいいっぱいの時には感じることができなかったけれど、このカフェに満ちている香り。
それは飲み物や食べ物だけではない、この空間を楽しみに過ごしている人たちが、それぞれに出しているもの。
日により変わるそれは、とても興味深いものだった。

なんとなく明るく、暖かい感じの時もあれば、それとは真逆の時もある。
一瞬で変わる時もあれば、一日ずっと一定な感じの時もある。

いらっしゃるお客様とスタッフ、それとは別の、何か目に見えないものが作用しているような感じもしているのだ。

そんなことを楽しめるまでに日常の業務がスムーズになってきた頃、何人かの常連さんに意識が行くようになった。

例えば、いつも朝の時間にいらっしゃるご夫婦。
ウォーキングの帰りなのかな?と思うような格好をいつもしていらっしゃる。
一つのフードを半分こして、ゆったりと飲み物を飲み、ただその時間を黙って過ごされているのだが、二人の間に流れる空気はいつも優しさに満ちているし、なんだか穏やかなメロディが流れているような感じ。

お昼時にいらっしゃる、スーツの男性。
若くて、しっかりした感じのする人で、いつもパソコンを前にシンプルな食事をしながら仕事をしている。
きっと、今は仕事が面白くなってきて、熱中しているところなんじゃないだろうか。彼からは、熱い空気を感じるから。

夕方にいらっしゃる、私と同じくらいの年齢の女性。
いつも身ぎれいにしていらして、すごくできる女性って感じの匂いがする。
ここにいる時間は短いし、いつも時計を気にしている感じだから、ひょっとしたら子どものお迎えなんかが控えているのかもしれない。

なんて、いろいろ想像したりする余裕も出てきた。
こうして直接いろんな方の顔を見て接客をすることの興味深さを感じている時だった。

夕方の女性が、席を立とうとした時に、飲み残したドリンクと持っていたカバンを床に落とされたのだ。
ちょうどそばにいた私は、お手伝いしようと駆け寄った。

「あ、すみません、大丈夫ですから…自分で片付けます」

とても恐縮しているその方に向かって

「いえいえ、お洋服の汚れはこちらをお使いくださいね」とタオルを手渡した。
大丈夫、とおっしゃったが、かなりの汚れだ。
たくさん飲み残されたのかもしれない。

床に散らばったものを取ろうと手を伸ばした時に、一冊の本が目についた。
それは、HSCと呼ばれる敏感な子どもについての本で、私も持っているものだった。
つい、こんな言葉が口をついて出てきてしまった。

「これ…私も持ってます。実はうちの子どもたちもそうですし、私もそうなので…」

その言葉を聞いた女性は、ハッとした顔をしたが、次の瞬間、その美しい口が歪み、目からは一筋の涙がこぼれたのだ。

「あ…やだ、ごめんなさい。なんで…やだ、本当に」

狼狽する彼女を目の前に、なんと声をかけていいか分からなかったが、自然に…あまりにも自然に、わたしの手は彼女の手に重なっていた。

言葉はない。しかし、手と手、そこから広がり、わたしたちを囲む暖かく優しい、でもどこか力強い空気を感じていた。

「…すみません、本当に。あ、もう行かなくちゃ…」
「いえ、お気をつけて…またのご来店お待ちしております」
「…あの…いつも、何曜日にいらっしゃいますか?」
「え?あ、はい…この時間帯は月水金に」
「…そうですか…また、来ます。本当にありがとうございました」

そのまま店外へ出ようとされたのをお見送りしようとしたら、くるっと振り向いた彼女はこう言った。

「あの、次お会いできたら…少しお話できないでしょうか、あの、本のことで…」
突然の提案だったが、どこかでそうなる気もしていたから、驚かなかった。
そして、そのお約束をしたのだった。

次のシフトの時、彼女は現れた。
話といっても、私も勤務中だし、そんなに込み入ったお話はできない。
簡単に自己紹介をして、連絡先を交換する形になった。
その短い時間の中だったが、彼女のお子さんが保育園で辛い状況にあることを少しだけお聞きした。
私にも、身に覚えのあることだった。

私にできることは何だろう。
時々連絡がくる彼女とのやりとりを通して、徐々に真剣に考えるようになった。
個人的なこのやりとりを続ける?
それは無料のままでいいのだろうか?
お話会みたいなのをしてみる?
それとも、こういう親子が集える場を作る?

どれも、仲間がやっていることだが、私が始めるとしたら何だろう。
何から始めたらいいのか…先立つものをどう用意すればいいのか分からないし、料金設定とかもどうするのか…考えていた時だった。
仕事上がりの時に、お店の中で偶然お子さんを連れた彼女と出会ったのだ。

何となく、二人から重い雰囲気が漂っていた。
そして、何かを言いたげな空気も伝わってきていた。
しかし、私は仕事が終わってはいるが、そう時間的に余裕もない。
どうしよう。何かできるのか、したほうがいいのか…

少しの時間のなんとも言えない空白が私たちの間に流れた時に、後ろから元気で明るい声が響いた。

「あら、こんなところで。偶然じゃない!二人とも、げーんき?」

振り返ると、あの朝の常連さんご夫婦が立っていた。
満面の笑みを顔中に光らせて。

「あ…ご無沙汰しています、その節は本当にお世話になりました」
「え…お知り合い、ですか?」
「ええ、そうなんです。ね?」

奥さまがニンマリ、といういたずらっぽい顔を浮かべると同時に、彼女のお子さんも、ニンマリ、と笑顔を返す。

聞くと、ご夫婦が時々自宅を開放して親子の集い場をしている時に、何度か参加したとのことだった。

「うちの子どもたちも、なんていうか、こう…
繊細なところがあってね。
学生の時分はいろいろとありましてね…
まあ、本当に老婆心ながら、何かお役に立てないかと思って」

多趣味なご夫妻には、たくさんの分野のお知り合いがいるらしく、体のこと、食のこと、心のことなどの専門家のお話会なんかもやっているのだと話してくださった。

やりとりをお聞きしていて、こんな方達がいらっしゃるのか…と、ただただ素晴らしいなという思いで聞いていたのだが。

「本当、いろんな角度からのお話を伺えたことで、ずいぶんと楽になったんですが…」
「何か、気になることが出てきたの?」
「ええ、実はこんな本を読んで。うちの子、そして私にも当てはまるのかなって…それでいろいろ悩んでいて。つい、いっぱいいっぱいになった時に、この方にお会いして、また一つ救われたんです」

全員の目が私に集中する。
えっえっえっ…?

ついさっきまで他人事として話を聞いていたのに、いきなり自分ごとになったことに、びっくりしつつ、つい口をついて出た言葉はこうだった。

「いえ、私はただお話をお聴きすることくらいしかできなくて…でも、私も子どもたちも同じなのでとても人ごととは思えなくて。
何かお力になれればとは思っているんですが…」

「それなら、一度うちにいらしてくださいませんか?
どんなことがお届けできるか、見つけていきましょうよ」

なぜかサクサクと話が進んでしまい、仕事がお休みの時にご夫妻宅へお邪魔することになった。

自宅からもそう離れていない、緑の多い住宅地にご夫妻宅はあった。
駐車場があるからとお聞きしていたので、車を停めさせてもらったのだが…
その広大な敷地に内心驚く。
お庭でかけっこして遊んだり、BBQしたりしている、という話をお聞きしていたが、ここまで広いとは…
そして不思議に落ち着く空気に満ち溢れていた。

そのあとの時間、今までにない満ち足りた感覚を私は味わっていた。
お互いの話を共感し合いながら聴き、それがとても無理なく自然な感じである。
目指すところが同じである安心感と、じんわりと湧いてくるワクワク感。
これは、今までにない感覚だった。
ここでなら、今まで学んできたこと、楽しくやってきたことが、うねりとなって相乗効果をもたらすかもしれない。
なぜか、そんな確信が湧いてきた時に、旦那さんが口を開いた。

「ここで何かをしていただく人には、私たちからもいろんなサポートをさせていただいているんです。
あなたが、もしこれからもっとブラッシュアップしていきたければ、その費用を応援もさせていただきますし、ここの場を使っていただく際は特に料金も必要ありません。来ていただく人たちへの呼びかけも、私たちにおまかせいただければいいですし」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。
それくらい、すぐに受け取ることができなかったけれど。

そんなことも、あるのかもしれない。
そう、私はどこかでそう思っていた。

驚きとともに、そうなっていることが必然であるという、ふたつのところを行ったり来たりしている自分に、ちょっとだけくすりと笑いながら、ここでどんな出会いの扉が開いていくのかを、静かな興奮とともにのぞいてみた。

扉を開いた先は、虹色の光が差し、無邪気な笑い声が響き合い、爽やかな香りが漂う、暖かで力強い空気に満ち溢れていた。


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「ミライノオト・モニターシリーズ」
MIERUKAアーティストAKARIが綴る、
お申込みくださった方の「勝手な未来の妄想ストーリー」
今回は、大好きな場所で、新しくお仕事を始めた方から、お金についてのストーリーのご依頼でした。

モニター募集時の記事はこちら
https://resast.jp/events/YjkwYzc3NWQ4M

<追記>
本募集が始まりました!
小さな本のタイプと、動画タイプをお送りしています。


現在こちらで受け付けています。
https://resast.jp/inquiry/89977

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以下は、お申込みくださった方のご感想です。

今回お申込みいただいたきっかけ、何にピンと来たかなどお知らせください。

ストーリーを通してミライを見る、というのが面白いくて、あかりさんの文章が小説のように想像力を掻き立てられるものだったので、ぜひ私も!と思いました。


届いた妄想ストーリーのご感想をお願いいたします

まず驚いたのは、新しい仕事を始めてから現在進行形で体験している心の揺れを、AKARIさんがばっちりと表現されていたことです。 
緊張の連続から少しずつゆとりが出てきて、また落ち込んで…その繰り返しから学んでいる気づきや発見が、繊細な表現でストーリーに盛り込まれていたので、AKARIさんはどこかからのぞいてるのでは⁉︎と思ったほどです笑。

 そして、今より少し先の、仕事を楽しめるようになった自分や仕事を通じた出会いが描かれていて、あぁこんな風に仕事の時間が豊かになったらいいな、と今に精一杯だった視点が未来にふわっと広がりました。 
その瞬間から根拠はないけど、未来にアクセスし始めている気がします。

 長年勤めた仕事を辞めて、色々な学びや興味を深掘りしたり、自分を癒すことに時間を費やしてきました。
そしてこの春から、大好きなコーヒーの香りに包まれて仕事をしてみたい、と軽いひらめきから新しい世界に飛び込んで。
 好きなことや学んだこと、誰かの役に立てたらという気持ち。それらがいつか線になって優しくつながって、ワクワクする未来がふくらんでいくとしたら…想像するだけで幸せです♡ 

今の選択が間違いだったかも、と落ち込むこともありましたが、今がきっと楽しい未来につながってると根拠のない自信が生まれています。目の前のことを乗り越えながら、今ある楽しみに目を向けていきたいと思います! AKARIさん、素敵なストーリーをありがとうございました♡♡


このミライノオトはどんな方にオススメしたいでしょうか?

今に対して答え探しをしている方、未来から今を見たい方


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モニターのご参加ありがとうございました。
未来への一つのヒントとなりましたら幸いです!

この度は本当にありがとうございました^^

さらにミライへ、そのオトを聴きならがら。

MIERUKAアーティストAKARI

ピコンと心が動いた時に、ぽっちり押してくださると、嬉しいです。 より良いものをお届けさせていただくともし火にさせていただきます^^