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ところてんの悲喜

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私の飛行機は、DHC-8という。そう、あの細長い胴体に、海軍機のようなガニ股の脚が最高にセクシーな彼女である。プロペラがついているが、私が今まで教官で飛んでいたセスナのような飛行機とは質的に異なるものがたくさんついていて、先日その彼女の操縦資格「タイプレーティング」の訓練を無事終了した。

飛行機というのは、小さいセスナから大きなエアバスまで、操縦の原則は変わらないが、機種によって操作の順序や飛行の特性は異なる。車ならBMWとカローラで別々の資格が必要ということはないが、飛行機では基本的に機種別に操縦資格を取得する必要がある。(国によっては軽飛行機は一律にしているところもある。)その資格は、大元の「免許」(ライセンス)に「限定資格」(タイプレーティング)として付与される。エアラインに入って最初の仕事は、運航する飛行機のタイプレーティングを取得することで、そのトレーニングと試験が終わったのだ。

質的に異なる、ということは、パイロットとしては大きなジャンプになるわけだ。具体的には、

・レシプロエンジンからガスタービンエンジンになったこと
・与圧キャビンになったこと
・2PILOTによる操縦になったこと

が大きい。推進力をプロペラで得ているだけで、エンジン内部の仕組みはいわゆる「ジェットエンジン」と変わりはない。国内線など、あまり速く飛ぶ必要がない比較的近距離の輸送では、プロペラによる推進の方が噴流による推進より効率が良いので、適材適所として「ジェットエンジン」の一番前にプロペラをくっつけるのだ。これを「ターボプロップ」と呼ぶ。速度を追求しない分、離着陸距離が短くなることも見逃せない。日本でも離島や地方の空港で「ジェット機」が離着陸できないようなところに交通の便を提供している。燃費のいいターボプロップは、地方に空の便を提供し、会社に利益をもたらす重要なプレイヤーだ。

上記の3つの特徴を持つ飛行機の経験は、多くの場合そもそもエアラインパイロットとして職を得るために必要となる経験であるにも関わらず、得てしてエアラインでしかそういう飛行機は運航していないという矛盾に、小型機のパイロットは苦しめられるのである。パイロットの需要が増えた時に、上記の経験を持っていないパイロットの募集がかかることがあったり、エアラインでないが上記の要件を満たす中型の飛行機を運航する会社(例えばメディカルパイロットなど)のパイロットがエアラインにステップアップした結果、小型機のパイロットが中型機に上がる、というようにして、ところてんが押し出されるようにゆっくりゆっくりとキャリアをのぼっていく。出口が閉まれば、ところてんは押出器の中でストップする。いつその扉が開くかは、中のところてんにはわからない。そういう状態でモチベーションを発揮するのは、よっぽど自分の味に自信があるところてんにしかできないだろう。人生を無駄にしているような感覚を持ちながら悶々と扉が開くのを今か今かと待つのが、海外のパイロットのキャリアの積み方の鉄板である。

翻って今は、空前のパイロット不足である。ところてんの扉が蝶番ごと吹き飛んでしまって、ところてんに味がしみる前にだだ流しになってしまっている状況だ。実際、私も中型機の経験を経ずしてダイレクトにエアラインの募集が来た。扉が開くと、その勢いはものすごく、私は教官をしながら5年近く待ったが、今では教官になって1年の連中がインタビューに呼ばれている。ところてんの供給元としてはたまったものではない。学校では教官が不足し、近く立ちいかなくなるだろう。それは、吸い上げ先のエアラインが種もみを食いつぶしているようなもので決して健全な状態とは言えないが、構造的な問題で、今のところ解決策はない。

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