喋らない子供
私はボランティア活動をしている。その時に一人の少年に出会った。その子をAくんとしよう。その子は家ではお母さんとたくさん話しをするのだが、いざ、他人と一緒になると緊張からか、自分から声を出して会話することはない。だが、その子は活動時は誰よりも楽しく過ごしている。
私達は子供と一緒に自然の中で遊ぶ活動をしている。子供は幅広い年齢層を対象としていて、大体同じ年齢層がグループとなるように我々も工夫している。
Aくんは自分の伝えたいことを小さなノートに書いて私達や他の子供達に伝えてくれる。その子は漢字が得意で、この間も私に、難しい漢字を教えてくれた。
いつの日か、Aくんが一度だけ、同じグループの仲のいい子と会話したことがある。その子をBくんとしよう。
どっちの道に行くかAくんとBくんに私と同じ大学生ボランティアが聞いた。BくんがAくんにどっちに行くか聞いた時に小さな声で「こっち」といった。ほんの小さなたったそれだけの会話だったが、A君とB君は確かに声を使って会話をしたのだ。
次に一緒に遊んだときは声を使った会話はなかったが、変わらずA君は一番楽しそうにしている。
いつもさようならをする時にAくんのお母さんと話をするのだが、いつもお母さんは「この子はいつもこの活動を楽しみにしているんです」と必ずいってくれる。初めてしゃべったときには我々もお母さんも共に涙を流すほどの感動だった。
そこに私は子供の可能性を感じた。いつも一緒に遊ぶ時に何がすごいかというと、A君が浮いている、孤立しているという状況が全く無いことだ。みんな彼の個性を理解している。だから、彼も少し喋ってみようと思ったのではないだろうか。
彼の個性は社会に出れば不利になるものであろう。だが、それを第三者がしっかり理解しやり取りを重ねることで、社会に適応していくのだと私は思う。
遠回りこそ一番の近道なのだ。
私の中の確信として、「人は出会うことでしか成長できない」ということがある。彼はそれを体現してくれた。そのことに感謝も同時に心のなかでしっかりとした。
さて、A君がまた喋れるように私も精一杯頑張ろう。
それではまた明日。
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