「ラベル付け理論」勉強記録(Saito: 2020)

最近、ちょっと勉強会仲間の影響でラベルづけ理論をさすがに勉強しようと思ったので、その勉強記録を自分用のメモとして以下に記していこうと思う。また、ただ論文を読むだけでその中身をアウトプットしていかないと無限に内容を忘れていくので、分野問わずにnoteの執筆頻度を増やしていこうと思う。最後に、内容上のミスに関するすべての責任は、このnoteの執筆者である私が負う。ちなみにまだ執筆途中で、のちに加筆・修正を加える。

さて、中身に入っておこう。ここから先は、Saito(2020)をベースにする。まず、ある文が生成されるには、併合という操作が必要で、併合とは、α, βという要素からγ={α, β}という構成素を形成する。そして、γがラベルに当たるところである。Saito(2020), Chomsky(2013)によると、併合によって形成される構成素は以下のように3種類ある。

(1)
a. γ={H, XP}
b. γ={H1, H2}
c. γ={XP, YP}

そして、主要部がγのラベルを決定するため、この3種類のうち(1a)しか許されない。しかし、(1c)のような併合も以下のように存在する。

(2)
a. ZP={DP, vP}
b. WP={DP, TP}
c. WP={DP, CP}

(2a)の場合、DPがspec-Tに移動するので、vPがZPのラベルを決定する。(2b)はDPの移動後の構造だが、DPとTPはΦ素性を共有しており、WPが〈Φ, Φ〉とラベル付けされる。(2c)は、wh移動に関してだが、これが循環適用の途中ならば、DPは移動するので、WPは、CPにラベルが決まる。そして、(2c)がDPの最後の移動であると仮定すると、ともにQ素性を共有するため、WPは、〈Q, Q〉というラベルに決まる。このことから、なぜDPがspec-vPから、spec-TPに移動するのかということがラベル付け理論の観点から説明されることがわかる。以上から、(1c)の構造になったときに以下の2種類の条件化で容認される。

(3)
a. XPがγ外に移動
b. XとYが主要な素性を共有する

例えば、Saito(2020: 24)では、以下の文が非文である理由がγ={DP, vP}を含んでおり、γのラベルが決定されないことであると説明されている。

(4)*(It)is likely [TP to [γ Mary[vP v [VP win the race]]]](Saito 2020: 24)

加えて、以下の文もγ={DP, TP}がラベルを欠いているため、容認されない。

(5)*There is like [γa boy[TP to [vP [VP win the race]]]](Saito 2020: 24)

さらに、Saito(2020)は、以下の例外的格付与文もラベル付け理論で正しく予測できることを示す。

(6)I believe the scientist to be a genius. (Saito 2020: 24)

まず、[TP to be a genius]と[DP the scientist]が併合するが(1c)の構造となってしまうため、DPがspec-Vに移動する。そのため、γ={DP, TP}のγはTPに決まる。その後、このTPとVが併合し、ラベルがVPに決まる。このVPと移動したDPが併合するが、(1c)の構造になるため、ラベルを得られないように思われる。しかし、DPとVPのΦ素性の共有により、〈Φ, Φ〉にラベルが決まる。

さて、EPPについてはラベル付け理論でどのように説明されるのだろうか。以下で示されているようにイタリア語は非対格動詞の内項が目的語の位置に留まることができるが、英語はそれを許容しない。

(7)
a. Affondarono due navi
   sank            two ships
b. *sank two ships
c. Two ships sank t (Saito 2020: 26)

(7a)は、TP={T, vP}となるが、(1a)の構造であるため主要部がラベルを決定しており、ラベル付け理論と整合的だ。では、なぜ、(7a)のように英語では、spec-Tにtwo shipsが上昇しなければならないのだろうか。それは、Saito(2020: 26-27)によると、Chomsky(2015)では、英語のTはラベルを供給できない弱主要部であるためと主張されているらしい。それゆえ、英語においてTPのラベル付けはΦ素性の共有でしか許容されない。

参考文献
斎藤衛(2020)「原理群による規則の説明から原理群の説明へ、ラベル付け理論をめぐって」

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