ファッションブランドのリブランディングの難しさ

先日、ナノユニバースがリブランディングしたらしい。

ダメ出ししたいわけじゃなくて、いま自分だったらどうするか?をUX的にちょっと考えてみたくて書いてる。

この前、かが屋の加賀さんが「将来、おじいちゃんになっても単独できるぐらいコントやっていきたい、その時お客さんの年齢もそのまま上がって同じぐらいだから少ない年金からお支払いいただくのは申し訳ない。」といっていたのだが、ファッションブランドもまさに同じようなことがそのまま起きる。

ナノといえば、ビームス・SHIPS・ユナイテッドアローズと並んで90〜00年代にぶいぶい言わせたセレクトショップである。90年代はなぜかみんなビームスのビニールバッグを背負ってたね笑

その後、店舗の拡大とともにセレクトショップからオリジナル商品にシフトして行ったのもあって、大体どのお店も個性が引き伸ばされて無味無臭になっていったように思う。その中でも感覚的にビームスだけはうまく個性を残していた気がする。

こういったファッションブランドって不思議なもので、実際に購入している層よりももっと若い人が買っていると感覚的に思ってしまう。20代のブランドはそのままシフトして20代が買ってるみたいな。
でも実際には前述した通り常連がそのまま年齢を重ねて普通におじさんになってるから、こういった時こそユーザー(現実)が誰なのかしっかり見ないといけない。(ターゲットを絞って明確にしてるキッズブランドなんかは別)

そんな感じで昔は尖っていたメンズブランドも、どんどん時が経つにつれ無難になってくるのは、購買層も合わせて歳を取っているというのと、正解データが溜まるが故に売れ線が無難なものになっていくからだろう。


また自分自身ファッション業界の中にいて思ったのは、
「ファッション≒アート」と勘違いしている人が多いということ。

もちろんパリコレのようにコレクションと呼ばれるアート要素の強いものもあるが、商業的なファッションブランドはそうではないだろう。

にも関わらず未だにこの「作り手主導」の考え方が蔓延してるので、カッコよければいい、自分たちにとっていい物、自分たちの利益になるものを提供するといった旧企業目線で考えてしまうことを、まず考え直す方がいい。
これはプロダクト側というより、むしろ実際に作っていないPRやブランディング側といった全体に蔓延する問題だと思う。

ちなみにナノユニバースでのリブランディングの記事を見てみると、

会社が大きくなり利益を追求する中で、オリジナル商品の比重が大きくなり、セレクト比率が下がり、個性が少しずつ薄れていった。尖ったセレクトの時代に戻るべきなのか、今のオリジナル商品訴求の路線をこのまま突っ走っていくのか、はたまた新しい答えを探し出すのか模索していきました」(中田氏)。約70人の本社スタッフと面談し、社員の意見に耳を傾ける中で新たな答えとして「マルチレーベルストア」へと舵を切ることを決めた。

まあ現状理解については思うことは一緒ですよね笑。本社スタッフと面談するのは素晴らしいですが、UXやデザイン思考的な観点でいうと常連さん70人と面談した方がきっと実りがあったでしょう(やってるのかもしれないけど)

今回のリブランディングでターゲットをどう設定したのかわからないけど、実際のユーザーが誰でどう思ってるのか?というのもそうですが、これぐらい大きくなるとライトユーザーや潜在ユーザーまで確認しておきたいところ。

新生ナノ・ユニバースはパーパスとして「生活に役立つファッションや情報を『知恵』として提案することを活動とする」を掲げる。

細かい企画書を見たわけではないので、この文章から読み取るにブランド自体を「メディア化」して、そのセレクトされたナレッジやアイテムからブランディングを形成していくってことだと思うんですが、まあビームス的な経済文化圏を生み出して発信していこうってことだと思うんですよね。

イメージ的にはこんな感じかな?

1. 世の中はモノに溢れまくっていて、何を買っていいかわからない(ペイン)
2. 接点としてプロダクト(服)がある
3. ナレッジを提供することで信頼やファンを増やす
4. それにより、ナノの服以外のものもチョイスするようになる
5. その商品は別にナノで取り扱っていなくてもいい
6. ナノユニバース文化圏内のコアユーザーを増やす

でもナノユニバースという大きなブランドの問題点として、結局ふわっとした曖昧な宣言になってしまうのは、色々な対象ターゲットがいるが故に誰がお客さんなのか絞れていないようにも見えるんですよね。

だってその「知恵」が何の実のことなのか、さっぱわからん笑、知恵と何か?
その「知恵の実を食べることによって、誰がどうなるのか?」までわかるといい気がする。実際にどう変わるのか具体性がわかない(まあそんなものかもしれないけど…曖昧にすることで逆に何にでもなれる)

このように難しい言葉になるとメディアには通じるかもしれないけど、お客さんには何が変わったのか全くわからないんです。「マルチレーベルストア」と言われても正直ピンとくる人はいないでしょう。

またお客さんとしっかり向き合って自分たちの提供価値を伝えたいと考えるなら、社員への共通メッセージもポエムにも英語にもならないと思うんですよね。
ちなみに余談だけど、サッカー用語で「インテンシティ」というのがあるが、これが選手によって解釈が異なってしまう曖昧な言葉だからしっかり日本語化しましょうという動きがあるという記事を見た。
結局、英語だと日本人にはカッコよく上辺を見せるだけのファッションになっちゃう。魂で理解できるものに落とし込まなきゃいけない。
そして本来の意味でのファッションはそうじゃないはず。

 基本的に現代のブランドは「自分たちに利益があるように最適な形に変化する」ではなくて、「お客さんの自己実現のために協力する」ためにブランドがあると考えるべき。

例えば、ナノユニバースの店舗に行くとファッション以外にもおじさんがかっこよくなるための体験が凝縮されていると考えてみる。

・スタイリストがいる
・美容師がいて、髪型のスタイリングのアドバイスをしてくれる
・ついでにセットしてくれたり、そのままセット剤も売っている
・合わせて基礎化粧品や、美容道具も提案する
・ボディメイクや、提携ジムなども提案できる
・筋トレした後の体に合わせたTシャツなどの販売
・店員のアシストなしで試着しまくれる
・試着会で常連はシーズンの服を試着しまくれる
・これだけは持っておこうと思える看板商品がある とかとか

そんな「イケおじ」になるための体験を提供することによって、ナノユニバースに行くとかっこよくなれる、新しいものを発見できる、なりたい自分になるための成功体験の提供や手助けをしてくれるブランドという認知を取っていくとかは割とスタンダードな考え方なのでは?と思う。
LEON的なものが代替わりして自分たちにやってきたらどうするか?みたいな。まああくまでもよくあるアイディアですが笑

 ちょっとぐちゃっとなりましたが、ファッションブランドはアート文脈の提供側視点ではなく、デザイン(誰が使うのか?)視点にもうちょっとシフトしないといけないということ。

そして誰?が使うのかを知った上で、どう顧客の自己実現に協力できるか?というユーザー視点で考えるいうのが、昨今のUX的な考え方なんじゃないかと思います。

「カッコ良ければいいでしょ?」という言葉は本物であればいいんだけど、しかしモノ視点だとすぐ飽きられてしまうので、できればユーザーがこれを使ってると・ここに行くと良い思いができるという体験をたくさん貯めていくことができるブランドが強くなっていくでしょうね。

日本人は人見知りが多いので、店員さんと話すのを避けがちだけどそれ自体も実はファッション業界の悪習が招いた呪いのようなものだと思う。

少しファッションに慣れてくると店員さんとコミュニケーション取りながら買い物した方が色々アドバイスしてくれるから助かったりするんだけど、
そういったように業界自体のネガティブをポジティブに変化させていくといったような考え方も体験としていいよね、なんてこれを書きながら思ったりしてる笑
ファッションって、色々なところに嫌な思いをするフラグがあって、その体験を企業側が改善する気がなく、とりあえず売れればいいやと考えている節がある。そんなおしゃれで大丈夫?ってずっとプレッシャーかけられてるみたいな・・・。
こう「アイドルが初めてプロにメイクしてもらって自分も可愛いかもしれない」キラキラみたいな体験ができると、ユーザーが自分に自信を持つ、ファッション自体が好きになるみたいな循環が出来ると良さそうだよね。

ちょっと話が逸れてしまいましたが、なかなかリブランディングって実際にやってみるとかなり難しいと思うので今回を機に良い方向に向かってくれるといいですね。

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