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千夜蹴行 第三夜

「イングランドを肴にミュンヘンで飲む話」

第8回ワールドカップは、この大会が始まった36年後、ついに1966年サッカー誕生の地イングランドで行われた、この大会では、いくつもの波乱があったね。

 アジアの代表「北朝鮮」が「イタリア」を破るという金星を上げたのもこの大会。

そして、もっとも大きな出来事は決勝戦で起こった疑惑のゴール。
聖地ウエンブレーでの決勝戦は、ポルトガル相手にボビー・チャールトンのキャノンシュート2本で勝ち上がった「イングランド」とソ連を持ち前のゲルマン魂で下した「西ドイツ」の間で争われたんだ。母国の威信とゲルマン魂のぶつかり合いは、力の均衡した素晴らしい試合になったね。
ドイツが先制、イングランドが逆転、終了直前にドイツが同点にした。そして、延長前半10分にそれは起きた。

 イングランドCFのジェフ・ハーストの放ったシュートが、ドイツゴールのクロスバーをたたき垂直に落下。ボールは、すぐにクリアされたが、主審はゴールを認めるホイッスル。さらに、ラインズマンのフラッグがセンターサークルを指した。ゴールは認められたわけだ。猛烈な抗議が西ドイツの選手から主審に向けられるが、抗議は認められず。気落ちした、ドイツはその後ハーストに決勝史上唯一のハットトリックになる追加点を許し、4-2のスコアで見事!イングランドがジュールリメ杯を手にしたんだな。

この疑惑のゴールは、その後も論議を呼び続けたね。このときの主審をしていた人は、スイス人のお医者さん。この人の人生は、この事件をきっかけに波瀾万丈なものになったらしい。国の威信をかけたワールドカップのレフリーの大変さが分かるね。

 と、今回の本題はここから。この大会から58年経った現在でも、ミュンヘンのビアホールでは、良いお年寄りが「あれは、絶対にゴールラインを割っていない」とビールの泡を飛ばして熱弁をする。
もちろん、イングランドのパブに行けば「あれは、歴史に残る素晴らしいゴールだよ」って言うだろうな。きっと。
ただし、素晴らしいなと思うのは、そのドイツのお年寄りに「じゃー、あれがゴールじゃなかったらドイツが勝ったの?」と聞くと「いや、それは分からん。あのイングランドは見事なチームだったからね。」と答える。
つまり、彼ら試合に負けた事を言い訳してるんじゃなくて。単に、そこで行われたプレーを論議して楽しんでるんだな。

まさに、「ロンドンを肴にミュンヘンで飲む」ってやつだ。なんだか、ここにさ、サッカーを楽しむ根底があるような気がするよね。ほんと。

ちなみに、このときイングランドが手にしたジュールリメ杯が盗まれて、8日後にそれを公園を散歩していたピクルスと言う犬が発見したという事件もあったんだ。ははは。ちょっと、温かい間抜けな話だよな~。

次回も、こうご期待!

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