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金木犀好きじゃない

仕事からの帰り、すっかり夜になった時間に歩くのが好きだ。今の時期は夜風が気持ちいいし、昼間ほど人が多くない。職場の最寄りの駅からわざと一駅分歩いて帰ることもある。東京の夜はお店の灯りがきらきら人を照らし、酒で上機嫌の人たちが日中の憂さを晴らす。夜の方が昼よりもよっぽど解放的だ。

帰路を小躍りしながら帰っていると、金木犀の香りが街中に立ち込めてきて、秋がやってきたことを実感する。せっかくなので、イヤホンを挿してきのこ帝国の「金木犀の夜」をかける。

実は大きな声では言えないが、わたしは金木犀の香りが苦手だ。甘ったるくてけっこうきつく感じる。このノートに添付されてる写真を撮りながら甘ったるい匂いに「うえー」ってなった。映えるためには身を削る覚悟が必要だ。

「金木犀の香りが苦手」なんて言うと、まるで情緒がない人みたいだ。わたしだって「だいたい夜はちょっと感傷的にな」るし、金木犀の香りで「夏は通り過ぎた」って気づくのに、金木犀それ自体の良さが全然わからない。こんなにこの曲を聴いているのに、根本が全然わからないのだ。

金木犀の香り苦手という人間を自分の周囲ではそんなに聞かない。数年前、SHIROの金木犀の香水が出たときにはかなり話題になっていた。「この時期は金木犀の香りがして幸せなんです」と職場の人が言っていた。街に咲く花の香りを愛でる人の心は美しく感じる。そんななか、「わたしはそんなに好きじゃないんです」とか言えない言えない。

香りを言語化するのはとても難しくて、単純に「苦手」としか言うことができないから難しい。「金木犀」って名前がかっこいいから、それを愛せる人は素敵な感じがするけれど、焼肉の匂いを好きな人だって充分情緒的なはずだ。

もしかしたら金木犀が好きな人が感じている香りとわたしが感じとっている香りは違うのかもしれない。それはなんだか寂しいね。



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