りっぱなくま

りっぱなくまのお話。

思い立って、子供向きのお話っぽいものを書きました。折角なのでnoteにあげます。読んでいただけたらうれしいです。


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森の中に一匹のくまが住んでいました。

大きくてとっても強いくまでしたが、とてものんびりした性格で、それが見た目にもしっかりあらわれているくまでした。

ある朝くまは、みずうみへ顔を洗いにいきました。そこで水にうつった自分を見て「われながら、なんてのんびりしたくまなんだろう。これじゃぁちっともくまらしくないや。」と思いました。

そこで、友達のきつねに相談してみることにしました。

「そうだなぁ。強そうに見えるためには、大きく見せるといいんじゃないか?」
ときつねは言いました。

「なるほど。どうぶつ界のきほんだよね。」とくまはなっとくし、家に帰ってクローゼットの中をがさごそと探し回りました。

「ぼうしなんてどうだろう。大きく見えるし、きちんとしていて、りっぱにも見えるじゃないか。」

くまは自分のすてきなひらめきにいい気分になりました。ぼうしの入った箱をごそごそと取り出します。

まずはハンチング。
「これじゃぁ、りょうしみたいだ。ぶるる、えんぎがわるいぞ。」
気をとり直してシルクハット。
「ふぅん。なかなかいいじゃないか。ただ、少し上品すぎるかな。」

その時、箱のおくできらりと光るものに気がつきました。
パーティー用のとんがりぼうしです。
「こりゃあいい!今までかぶったぼうしよりずっと高さがあって、大きく見えるぞ。それに、きらきらしていて、王さまのかんむりみたいじゃないか。」
くまは、とんがりぼうしがすっかり気に入りました。

その箱には、ほかにも色々なものが入っていました。
「おや、これは、よくりっぱな人がつけているネクタイじゃないか。人間の村で村長さんがつけているのを、見たことがあるぞ。」
くまはそう言って、そのネクタイをつけてみました。

「うん、いい。こい茶色の毛皮に、赤がはえている。なんだか、りっぱなくまになった気がするぞ。」
くまはすっかり気持ちが大きくなって、かがみの前で『えっへん』とむねをはってみました。少しななめから見るといっそうすてきです。


「そういえば、村長さんはメガネもかけていたな。そして、おひげも生やしていたぞ。」
そう思い出したくまは、引き出しの中をがさごそと探しました。シックなぎんぶちのメガネがありました。おひげは、紙を切って作ることにしました。

「うん。いい。いげんたっぷりの、りっぱなくまだ!」


くまは、意気ようようときつねのところへいきました。
「やぁ、どうだい。りっぱなくまに見えるかい?」

きつねはびっくりしました。
りっぱなくまですって?どこからどうみても、ひょうきんなくまにしか見えないではありませんか。

けれど、くまの友達のきつねには、それを言うことはできませんでした。のんびりもののやさしいくまを、傷つけたくなかったのです。


「い、いいと思うよ。りっぱなくまだねぇ。」
何とかがんばってことばをしぼりだすと、くまはうれしそうに
「やっぱり、そう思うかい?」とにっこりしました。

そして、きりりと表情をひきしめて、
「そうだ。しあげに、いげんたっぷりのりっぱなくまのすがたを見せて、誰かをこわがらせようと思うんだ。」
と言いました。

「え!そ、そのかっこうでかい?」
「あぁ、もちろんだよ。このかっこうなら、何だか勇気が出る気がするんだ。」


きつねはあわてましたが、「いいと思うよ」と言ってしまった以上、何も言うことができません。

きつねがアワアワおろおろしているのに気づかず、くまは行こうとしています。
なんとかしてくまを引きとめなくてはと思ったきつねは、
「くまくん、そのー、えーと、君みたいなやさしいくまに、誰かをこわがらせることなんてできるのかい?」と言いました。

くまは少しかなしい顔をしましたが、ふたたびキリリとまゆ毛をあげて、
「こわがらせるのはもうしわけないと思う。でも、もうぼくも大きなくまなんだから、りっぱにやりとげたいんだ。今こそ、チャンスだと思うんだよ。」
と言いました。


「でも、あんまりこわがらせたらかわいそうだから、ちょっとだけおどろかせて、後でおわびにケーキをごちそうしようと思うんだ。きつねくん、ぼくのことを考えてくれて、アドバイスまでしてくれてありがとう。ぼく、がんばるからね。」

くまにそう言われて、きつねは、もう何も言えなくなってしまいました。
すっかりこまってしまって、とうみん明けのくまのようにうろうろしているきつねをおいて、くまはのっしのっしと歩いていってしまいました。

「うーん。だれのところにいこうかなぁ。ねずみさんじゃ、びっくりしすぎて心ぞうがとまっちゃうかもしれないし、しかさんじゃぁ、『なぁんだ、くまさんじゃないか。』と言われてしまうかもしれない。」

そんなことになったら、もう次の勇気はでないかもしれない。そう考えていると、ぴったりの相手が思いつきました。

「そうだ、しかさんでも、やまももの木のとなりに住んでいる、あそこのしかさんならおどろかせられるかもしれない!」

そのしかはとてもこわがりな性格で、もう大きなしかになっているにもかかわらず、うまれたての小じかのようにいつもふるえているのです。

「ちょっとかわいそうだな。いっしゅんだけおどろかしたらすぐにあやまって、おわびのケーキをわたすことにしよう。」

そう思ったくまは、ケーキを焼いてフルーツとクリームをかざりつけ、しかのところへいそいそとでかけて行きました。


「ふうふう。ようやくたどり着いたぞ。もしもし、しかさん。こけももの木のとなりのどうくつに住んでる、くまです。ケーキを持ってきました。」

初めて会うのですから、れいぎ正しくした方がよいと、くまは思いました。これからおどろかすつもりなのにおかしな話ですが、このくまはのんびりした性格な上にめっぽうまじめな性格でもありましたから、あいさつをきちんとするべきだと考えたのは当然のことでした。


「は・・・・・はい・・・・なんでしょう・・・・・・?」
「しかさんに、ちょっと、ぼくのすがたを見てほしいのです。おねがいできますか?」

くまは、とてもとてもていねいに、しかにたのみました。
しかは、『いったい突然どうしたことだろう。会ったこともないくまさんがケーキをもってたずねてきて、しかもすがたを見てほしいだなんて。』と、とまどいました。

しかは、ブルブルふるえながら、うんうんとなやみました。その間、くまはドアの前でおとなしく待っていました。

「どうしよう、どうしよう。ドアを開けたら、いきなりおそいかかってくるんじゃないかしら。」そう思うとますますふるえが大きくなってしまうしかでしたが、体の大きなくまだったら、『いやです』なんて言ったとたんに、ドアの1枚なんて軽くふっとばしてしまうのではないかと考えました。

「ドアの1枚どころか、家ごとふっとばせるんじゃないかしら・・・?」

おそろしい考えに、しかはますますガタガタとふるえ上がりました。くまがこわさなくても、しかのふるえで家がこわれそうです。


しかはかんねんして、ドアを開けることにしました。

「えっ・・・・・・・?」

しかは、よそう外のこうけいにビックリして固まってしまいました。
おそろしいくまの姿をそうぞうしていたのに、そこに立っていたのは、きらきら光るとんがりぼうしに、めがねとおひげとチョウネクタイをつけたくまだったのです。しかも、手には大事そうにケーキのはこを持っています。


「ど、どうしたんですか?くまさん。そのかっこうは・・・・?」
とたずねるしかに、くまはせいいっぱいむねをはって言いました。
「ふふ、今日はね、きみをびっくりさせたくって、このかっこうで来たんだよ。どうだい?びっくりしたかい?」

すると、しかはしばらくぽかんとした後、みるみるうちに目になみだをためたのです。

『ど、どうしよう。おどろかせすぎてしまった!』

くまがおろおろして背中をさすりはじめると、しかは、ぽろぽろとなみだをこぼしながら「ぼくが、今日たんじょうびだって知ってて、おいわいに来てくれたんですか?」と言いました。

「え!た、たんじょう日?」
「はい。今日はぼくのたんじょう日です。でも、ぼくはこわがりなのでだれとも話したことがなくて、ともだちがいないんです。だから、きっと今年のたんじょう日もさみしくひとりで過ごすんだって思っていました。なのに、一度も話したことのないくまさんがこうして楽しいパーティーのかっこうをして、ケーキまでもってきてくれるなんて・・・・!」

今までこわくてこわくて毎日ふるえていたしかは、今はうれしくてうれしくて、感動のあまりふるえていました。

『え!本当は、ちょびっとだけこわがらせて、そのおわびのためにケーキをわたすつもりだったんだけど・・・』

今度はくまがすっかりどうようしてしまいました。けれど、うれしくておいおい泣いているしかを見ているうちに、くまは『こんなによろこんでくれるなんて、今日、ここにこのかっこうをしてケーキをもってきてよかったなぁ。』というきもちになってきました。そう。だって、このくまは、とてものんびりした性格のくまなのです。


その時、はぁふぅと息をきらせながら、きつねがやってきました。
「どうしたんだい?きつねくん。」
「ぼく、どうなったのか気になって、きみがしんぱいで・・・」
ぜぇぜぇと肩でいきをしながらきつねは言いました。やさしくてまじめなくまのことですから、しっぱいしたら落ちこむのはもちろんのこと、うまくいったとしても、こわがりなしか相手にかわいそうなことをしてしまったと、がっくりしてしまうのではないかと思ったのです。

よくみると、そこには泣いているしかと背中をさすっているくまがいたので、きつねは『あぁ、うまくいったけれど、こわがらせすぎてしまったのだろう。』と思いました。

「しかさん、泣かないで。ほら、ぼくジュースを持ってきたんだ。みんなで飲もう。」ときつねはジュースの入ったバスケットをさし出しました。くまが落ちこんでいたら元気が出るように、見はらしのいい丘でいっしょに飲もうと持ってきていたのです。

「あ、ありがとう・・・」と、しかが目をこすりながらカゴをのぞきこむと、そこにはなんとクラッカーが入っているではありませんか。

「クラッカーが入ってる!」
信じられないといった表情で、しかはもう一度目をこすってからかごをのぞき込みました。きつねは、きまずそうな顔をして「う、うん。おいわいにもってきたんだ・・・」と言いました。くまがしかをおどろかすことに成功したら、くまをなぐさめた後でおいわいをしてあげようと思っていたのです。

すると、くまが「きつねくん、きみは本当に、なんてすばらしいきつねなんだ!」と言いました。

「え!す、すばらしいだって?」
「うん。今日はね、しかくんのたんじょう日なんだよ。」

くまがにっこりして言うと、きつねはホッとして、それからうれしくなってきました。友だちのくまも、そしておくびょうなしかも、どちらも傷つかずにすんだどころか、こんなうれしいことになるなんて!


そうして、くまときつねとしかは、みんなでたんじょう日パーティーをしました。
「うれしいなぁ、こんなにしあわせなたんじょう日は、本当にはじめてだよ。」
としかが言うと、くまもしあわせそうに
「よかったよ。ぼくも、あたらしい友だちができてうれしいよ。」
と言いました。

「え?ともだち!?」としかが耳をぴんとさせておどろくと、くまは
「そうだよ。ぼくたち、こうしていっしょにおいわいして、すっかり友だちじゃないか。それに、ぼくはこけももの近く、きみはやまもものちかくに住んでいて、ぼくたち、なんだか気が合うと思わないかい?」
とうなずきました。

「ぼくも、友だちになってくれるかな。」ときつねが言うと、「も、もちろんだよ!」としかは言いました。感動でふるふるとふるえていました。

「こんなすてきなジュースをいっしょにのんで、おいしいケーキをたべて、すばらしい気持ちになって、友だちじゃないはずがないよ!」とふるえるしかに、きつねはひげをピンとさせて、とくいげに言いました。

「ふふふ、このジュースはね、くまくんの家のとなりのこけももと、ぼくの家のとなりのベリーを使って作ったとくせいジュースなんだよ。すてきだなんて、うれしいじゃないか。」

そして、目をほそめながら「来年は、きみの家のとなりのやまももの実も使って、とくせいジュースを作りたいな。それを飲みながら、こうしてまたおいわいをしたいんだけど、いいかな。」ときつねが言ったので、しかはこうふくにとけそうになりながら、こくこくと何度もうなずきました。ふるえはすっかり止まっていました。


こうして、くまの作戦は大せいこうに終わったのでした。
え? 「こわがらせていないじゃないか」 ですって?

そんなことはありませんよ。しかは、ドアをあける前は家がこわれそうなくらいにふるえてこわがっていたし、ドアを開けてからは、固まってしまうほどにびっくりしていたではありませんか。

コーヒーを飲みに行ったり本や苗を買ったりすると思います。