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競馬おじさんロールプレイ仮説

東京競馬場に2回ほど行ったときに感じたことだ。
行く前は、競馬場と言えば小汚いもので、帽子を被った酒気帯びのおじさんたちが、ぐしゃぐしゃの競馬新聞片手に野次を飛ばすところだというイメージがあった。きっとそのようなイメージを払拭するために、JRA方々大変な労力と資金を費やしたのだろう。実態は正反対で、少なくとも府中のそれはどこもかしこもピカピカの設備、子供が遊べる巨大な遊具たちが揃えられ、確かに帽子を被った酒気帯びのおじさんは床に競馬新聞を広げ座り込んでいるものの、老若男女あらゆる人種がそこには居た。そして、そういうわかりやすい「競馬おじさん」アバターの方々は、声援こそ上げるものの、別にゴール板前で野次を飛ばさない。どちらかと言えば、ファンファーレではしゃぎ、道中で騒ぎ、結果に声を荒らげるのは、圧倒的に年若い男性が多かったように思えた。
面白いと思わないか?
彼らは、大体友人か恋人と来ており、身奇麗で、一見すると無害そうである。だがやけに大声で喋り、ともすれば聞こえそうな距離で騎手に文句をつけ、レースが終われば大袈裟に一喜一憂し、その場に馬券を投げ捨てていく。
ここでは彼らのマナーの悪さを殊更に批判するつもりはない。また、たった2回しか行っていないのだ、たまたまそういう輩に遭遇してしまったのだと思うこともできる。しかしとりあえず、一旦そういうペルソナを設定して話を進めてみよう。
彼らに共通するのは、「演技がかっている」ことだ。大仰な仕草は、誰かに見せることを想定しているかのように見える。一緒に来ている身内にだろうか。それとも。
先日、オークスの前の記者会見にて、川田将雅ジョッキーが「ゲートが開く前、あと2秒ほど声援を我慢して(要約)」と異例のお願いをなさっていた。現地に行くどころかリアルタイムでの視聴も叶わなかったので、状況証拠での記述となることをお許しいただきたいが、呼びかけは拡散されて競馬ファンにしっかり伝わったようで、レース後川田ジョッキーが深々と馬上で一礼、勝利インタビューでも感謝の念を述べていらっしゃった。
そもそもゲート入りの際の歓声は、コロナ禍後にできた新しい慣習だという旨のことを川田ジョッキーが仰っていた。つまりそれを作り出したのは、きっと過去の例を知らない私のような競馬初心者だ。ということはそれを辞めたのも、おそらく競馬初心者ということになる。私が現地で見た、謎にテンションが高くてお行儀のよくないお仲間たちも、その中に居ただろう。
やればできるじゃないか。
やっぱり、普段の所作は演技なのではないか?
考えてみよう。熟練かつモノホンの競馬おじさんたちは、本気で競馬をやりに来ている。酸いも甘いも大穴決着もトリガミも噛み分けているのだ、勝ち負けに今更騒ぐこともない(相当の大荒れや激アツ展開ならさておき)。ぼそぼそと口の中で悪態をつくことはあるだろうが、所詮おじさんたちにとってこれらは日常。開催日の開催レースほぼ全てに目を光らせ、収支に命を賭けしつわものどもにとって、声を張るのは最終コーナーだけで十分なのである。……私の作り話だ。これもまた、仮想顧客《ペルソナ》に過ぎない。東京競馬場でたった2日見た光景から妄想を膨らませただけのこと。
さて、フィクションは続く。
ところが競馬歴の浅い若人たちにとって、きらびやかな施設、豊富な飲食店の数々、展覧会かショーか否パドック、目の前で美しい馬体が弾む熱狂のレース、これらは非日常の類に違いない。いや少なくとも私にとってはそうだ。中央競馬場とはテーマパークなのである。高揚せずに居られるか。あれもこれも輝いて見えて、楽しくて仕方がない。競馬場グルメをあれこれ買い食いして堪能。パドックに行けば、目と鼻の先に見知ったスタージョッキーとスターホースが。競馬新聞を握りしめながら発券機に走り、馬場に響き渡る幾多の足音と共に決着を見届けた、そのとき、歓声か悲鳴か、思わず声が出てしまう! やけに興奮している若者……そう、私も含む、なんかは、きっとこういう気持ちなのではないだろうか。
遊園地に行く多くの者は、没入するために、カチューシャなんか買ってみたり、コンセプトコーデをキメてみたり、その世界観に溶け込もうとするのが常だ。そして、府中という夢の国――100円が10000円になるかもしれないという意味でも、夢の国であろう――で世界観に溶け込むためのロールモデルが、「競馬おじさん」なのだとしたら。酒に酔っていて不気味なほど元気で、ギラギラの目をギョロつかせ、ちょっと不躾で無作法な、イメージ通りのギャンカス。決して若者が皆競馬初心者だとは言わないが、本物のおじさんに比べたら年齢の分だけ歴の差というものがある。そんな中わざわざでかい声で騎手や馬を品評するような勇気ある行動は、まるで何かのアピールにさえ思える。というか、アピールなのだろう。カチューシャやコンセプトコーデより品は悪いが、競馬場という世界観に沿って、競馬に詳しく勝負に厳しい、「競馬おじさん」ごっこをしているだけ……私の目にはそんな風に映った。
重ね重ね申し上げるが、非難でも皮肉でも何でもない。少ない論拠をもとに勝手に仮説を立てているだけだ。もしこの文章が耳に痛いと思うなら、今すぐ競馬への態度を改めることをお勧めする。最低限「その場」に居るときぐらいは。
仮説を立てたからには検証が必要である。そうだろう? これは決して私が競馬場にとても行きたいとかではなく、ただそのような「競馬おじさんロールプレイングボーイ」の存在を再度確かめたいというだけであって、ああもっと色んな競馬場グルメ食べたいな、2回ともチキン食べちゃった、すげえジューシーで美味しいけど塩のかけ方がわかんねえんだよ、毎レースゴール板前に居ちゃうから最終コーナーとかスタートとかも目の前で見てみたい、いやでも府中はパドックからだとゴール板前への接続がいちばんいいからな、ていうかいっそレースフル無視でパドック最前陣取ってみたい……今回は年若い男性について書いたが、年若い女性所謂UMAJO? が何をしていたかというと大体みんなパドックに張りついていた気がしていて、うんうん、馬めっちゃ可愛くてかっこよくて綺麗だもんな、私もやってみたいな、いいカメラ持ってないけど……。
ちなみに本稿を書くにあたり本当に野次おじさんが居ないのかGoogleで調べたのだが、中山にだけ居るらしい。居るんかい。でなんで中山だけなんだよ。行ける距離なので今度こちらも検証してみたいと思う。全然バカでかもつ串が食べたいとかじゃない。有識者によると「鈍器みたい」らしい。めちゃくちゃ美味そう。内臓大好き。
それから、地方競馬場との比較も欠かせないだろう。旧きよき、なのか、古く悪しきなのか、体感せねば。冒頭のイメージのような、「ここは小娘の来るところじゃねーぞ!」的な殺伐とした雰囲気かも知れない。確認が必要だ。あくまで確認だぞ。存じ上げない馬と騎手ばかりだろうから、予想めっちゃ難しいのでは……! あと、毎年大井競馬場のイルミネーションの広告を見ては行ってみてえなあって思っている。今年こそは。クリスマス付近にやっているのかと思ったけど、「冬季」と銘打って10月からやっており結構長い。いいね。だが、開催日じゃない日に行うらしい。えー、馬も見たい。2回以上行かなくては。
はい、競馬場、とても行きたいです。
私も知らず知らずのうちに、厄介UMAJOロールプレイをしていたりして。人の振り見て我が振り直せ。マナーよくお行儀よく品よく、でも勝利には貪欲に、今後とも競馬を嗜んでいく所存である。

https://twitter.com/anagramargura
https://www.youtube.com/@nAgra_aM

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あなぐらまえすとろ

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