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元鳩(元犬改作)Ver.2.0

大須観音と言うと鳩が多いので知られておりますが、あれだけ鳩がおりますと、中には一羽くらい変なヤツもいてるようでございまして。

「バサバサッ… はぁ、ええなぁ人間っちゅうのは」
「なにアンタ急に。どうした?」
「いやな、このへん歩いてる人間みんな楽しそうやん? 羨ましいなぁと思って」
「なんやそれ? それより見てみ、向こうから来る親子連れ。あの子供の方、あれエサやりたいってグズグス言うで」
「そんなん分かんの?」
「わかるよ、そんなん。あの顔はね、エサやり顔や」
「へぇ。良ぉモノを知ってるねぇ」
「まあな。俺ら鳩は3歩歩くと忘れるやろ? だから忘れんためには、ちょっとの移動でも飛んでったらエエねん。そしたら忘れんと、覚えとけるんや」
「なるほど。えらいもんやなぁ。俺もやってみよかな」
「そんなこと言っとる間に、ほら! 子供がグズグズ言いだしたぞ。ほらエサ買っとる! ほら来た。食え食え〜」
「おぉ~食え食え~…て、違う違う。いや、そら俺もエサは食いたいよ? 食いたいけど、何なんこの姿! 情けない。俺はエサを撒く側になりたいんや」
「そうか? 俺はエサ貰っとる方が幸せや思うけどな。まぁそんなん言うなら、観音さんにお参りしてみたらええやん。観音さんに頼んだら願いが叶うらしいし」
「マジか! そしたら俺『人間にしてくれ』って頼んでくるわ」
「そら好きにしたらエエけど、観音さんにお願いするなら、お賽銭がいるで』
「お賽銭?なにそれ?」
「観音さまのところで人間がなんか投げとるやろ? あれがお賽銭」
「はぁ、なんか小さいもん投げてるな」
「あれは金や。観音さまにお願い事するなら、お賽銭をあの箱に入れなアカンで」
「え? でも金なんか持ってへんで」
「そらそうやわ。人間には大事な金でも、ハトには何の役にも立たせんし。もし金が欲しいなら、カラスにでも聞いてみたらええわ。カラスは光るもん好きやから、もっとるかもわからんで」
「カ、カラスて!あんなもんに声かけたら命がいくつあっても足らん」
「ま、人間になろうなんて願いは命懸けちゅう事やな。ほんなら私はむこうの人間に豆ねだりに行くから」
「おい、ちょお待て!あかんあかん!」
「ん?……えーっと、どちらさんでした?」 
「いや、もぉええですから行ってください……。あいつ、3歩歩いて忘れてもうたんやな…。ホンマ鳩っちゅうのは難儀なもんやで。あれ?ちょお待てよ。あそこに落ちてるの、あれ金やないか!」

気のつくやつがあったもんで、大須観音には鳩のエサが入れてあるボックスがあるんですが、このハトさん、そばに落ちてたエサ代の50円玉を咥えますと、ぶわぁ~っと飛び上がりまして… 歩いたら忘れますからね… 観音様のところまでやってまいりまして…

チャリン
「観音様、お賽銭も入れさしてもらいましたんで、これで何とか願いを叶えてもらえまへんやろか。人間に、人間になりたいんです。どうか人間にしてください。お願いします」

言うておりますと、一筋の風がヒュ~、鳩の羽がバラバラ~っと、舞い上がりまして… なんとこの鳩、人間になってしまいまして

「へっくし!なんや急に寒ぅなってきたな。仲間んとこ行くか。集まっとればそれなりにあったかいからなぁ。
(飛ぼうとして)いょっと!いゃっと!
あれぇ?なんで飛ばれへんねや?… あ!ちゃうがな!!羽根がおかしいで!! ワシ…ワシ…人間になってるがな~~。
50円で!?
やっすい観音さん…いや、親切な観音さん。ありがとうございます。羽根が手になったから、こうして人間らしく手ェを合わせる事も出来るようになりました。いゃあ~頼んでみるもんやなぁ。まさかこんなに簡単に人間になれるとは。
あれ? せやけど、飛ばれへんっちゅう事は、歩いて行かなあかんのか? 3歩歩いたら忘れるんとちゃうやろか。けど歩くしかないからなぁ。しゃあない行くか……… 1歩、2歩、3歩… おぉ〜、忘れてへんがな。コレが人間か!

さ~て、せっかく人間になったんやから、さっそく! ……さっそく。……何したらエエんや? 人間て普通なにすんねやろなぁ? あ、向こうから人が歩いてくるな。あの人にちょっと聞いてみよかな。あの、ちょっとすんません」
「はいはい、何ですか。う、うわぁ!何ですかアンタ!!こっち来んな!(持ってる荷物を投げつける)へ、変態野郎!!」
「変態って何やねん。ずいぶんな言われようやな。……あ、裸やん。そらそうか。鳩の時は服着てなかったからな。人間は服着てるのが普通やから、このままやとマズいんか。あ、この投げつけられたやつ、よぉ見たら服やな。とりあえずコレ着といたらエエやろ。よし! そしたら、とりあえず、あっちの、あの賑やかそぉなとこでも行ってみよか」

*小拍子*

「なんや、色んなもんがあるなぁ。鳩やった頃には来たことなかったからなぁ。ホンマに色々あるなぁ。お、これは食いもんか?美味そうやな。バリッ(袋を開ける)ボリボリ。うん、コレは美味い!ボリボリ。美味いなぁ!美味い!」
「あ!何やってるんですか!売り物なんだから、勝手に開けてもらったら困りますよ。ちゃんと買ってくれるんでしょうね?」
「買う?ワシ金なんか持ってへんで?」
「何ぃ!?」
「うわわっ、何やねん」
「逃げた!泥棒〜。お巡りさん!泥棒です〜、菓子泥棒!!」
「何やね〜ん!(走って逃げる)えっほえっほ……。はぁ、もう追いかけてけぇへんな。あ〜びっくりした、何やねん急に大声出して。怖かったなぁ。くたびれたし、ちょっとそこの日当たりのええとこで、一休みさしてもらお。はぁ〜ぁ、どっこいせと」

「あのぉ、すみません。ここウチの店先なんで、座り込んでもらうと困るんですけど」
「あ、ここにおったらあきませんか。えろぉすんません。怖い人に追い回されて、よぉやく逃げ切ったトコなんですわ」
「それは災難でしたねぇ。よく見たら裸足じゃないですか。なにか事情がありそうですね。良かったら、ちょっと中で休んでください」
「ほな、ちょっと休ませてもらいますわ」
「どうぞどうぞ。ところで、お名前は?」
「名前?ちょっと分かりませんねぇ」
「え?わからない??じゃあお家は?どこから来たんですか?」
「あぁ、それもよぉわからんのです。気ぃついたら大須の観音さんのとこにおったんですけど、たぶん今朝、3歩歩いて記憶がなくなったんやと思うんです」
「散歩してて記憶喪失になったんですか?大変じゃないですか!」
「まぁよくある事なんで」
「そんな事ないでしょ! 大事件ですよ」
「そんなことより、ここは不思議なもんがよぉけありますなぁ」
「そんな事て…。普通のスポーツジムなんですけど、まぁ記憶がなかったらそう感じるかもですね。あ、そうだ。私もスポーツトレーナーですからね。歩き方をみてスポーツの経験なんかがわかるんですよ。何か思い出すきっかけになるかもしれないし、ちょっとやってみましょうよ。この線に沿って歩いてみてください」
「へぇ、この線に沿って歩くんですか。(首を前後に動かしながら歩く)」
「いやいや、ふざけてないで、ちゃんと歩いてくださいよ」
「いや、別にふざけてまへん」
「そうですか?じゃあもう一回歩いてみてください」
「へぇ、(首を前後に動かしながら歩く)」
「それ!何なんですか、その首は?」
「なんや言われましても、勝手に動くんです」
「勝手に?変わった人ですね。そもそも歩き方だけじゃなくて立ち方も良くないですよ。一回ピシッと立ってみてください」
「こうですか?」
「そこまで胸はらなくて大丈夫ですよ。え?それも勝手になる?ずいぶんと鳩胸ですね」
「はは、そら本家本元ですから」
「何言ってんですか」

*小拍子*

「あれ?人間が飛んでる」
「飛んでる?あぁ、あれはトランポリンですよ。興味ありますか?」
「興味ありますねぇ。今日は歩いたり走ったり疲れたんで、そろそろ飛びたいとこでしたんや」
「じゃあやってみましょう。記憶が戻るかも知れないですし」
「ここでっか?うわ!なんやムニャムニャした地面ですなぁ」
「これがトランポリンですよ。さぁ跳んでみましょう」
「はい。いょっ!いやっ!…飛べまへんなぁ」
「いやいや、手ぇバタバタしてもダメですよ。トランポリンなんだから、ちゃんと自分でジャンプしないと」
「なんです?」
「ジャンプですよ。ジャンプ!」
「ああ、知ってます。友情!努力!勝利!」
「それは少年ジャンプ!何でそれは知ってるんですか。そういう事やなくて!改めて説明しよう思うと難しいなぁ。
あのね、トランポリンでとぼうと思ったら、自分で跳ねないとダメなんですよ!」
「ええっ!はねないとダメ!?はぁ~、ほんならワシには無理ですわ」
「無理? 何で無理なんですか?」
「そらそうでしょ。さっき人間になったとき…

羽、なくなりましたんで」


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