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となりのメイウェザー 第3のリベロ Vol.21

フロイド・メイウェザーと朝倉未来の対戦が月末に迫った。例によって、エキシビジョンマッチで、ボクシングルール。体格では朝倉が上回るとはいえ、5階級を制覇したボクシングのレジェンドが、ボクシングでMMAファイターと渡り合えば、勝って当然というものだ。ボクシングの第一線を退いて以降、こんな対戦ばかり重ねてきたメイウェザーは、Money (金の亡者)の面目躍如である。

思い起こすのは2018年の大晦日、キックボクシングの神童・那須川天心との一戦。結果は残酷なまでのメイウェザーの圧勝で、「急所にヒットしていないのにダウンしたのは体力差があまりにも大きかったからだ」という旨のコメントを残したのは魔裟斗だが、ルールのみならず体格のハンディをも負った天心には危険な挑戦だった。メイウェザーはその前年にもUFCで史上初めて2階級同時王者となったコナー・マクレガーと対戦しているが、TKOで仕留めるのに10ラウンドも費やしては、苦戦というほかない。公式戦であればおよそ成立しない不公平な条件であっても、興行としては成立させてみせる。順当に勝っただけなのに、観る者には「不敗神話」が継続しているかのように錯覚させる。これぞ、メイウェザーの「史上最強」たる力のなせる業だろう。

数字やステイタス、有無を言わさぬ強大な力でもって、「勝って当然」の状況を設定する。そんなメイウェザーの流儀は、さまざまに類を見出すことができる。賛否両論、慎重な議論を要する法案であっても、数に物を言わせ強行採決を繰り返してきた政権政党がある。いまだにExcelが学校の必修科目になったとは聞かないし、教育機会の不平等や知識の個人差を孕んでいるのに、ビジネスに不可欠なツールとして圧倒的に普及したがため、Microsoft Officeは否応なく身につけるべき一般常識となった。TOEICにTOEFLにIELTS、駅前留学やスタディサプリ、マイナー言語を話す人間に先天的な不利を負わせ、その力試しや学習をなかば商品化しているのだから、英語とは言語の世界におけるメイウェザーだ。

先輩からの理不尽な指図、顧客からの無茶な要求。世の中のあちらこちらに、メイウェザーは根を張っている。絶対的に優位な地位を築くこととは、「自らがルール」になることなのかもしれない。朝倉戦は、計量なしで行われることになったという。せめて一度でも、と期待したくなる。ウェイトを利した朝倉の重たいパンチが、メイウェザーに叩き込まれることを。



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