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ユーロで梅雨明け Footballがライフワーク Vol.42

耳が痛くなり、答えに窮する問いかけがある。「休みの日、何してるんですか?」なるものだ。近頃は「ガクチカ」というスラングもあるようだが、就活していた当時の難問だった「学生時代に力を入れたこと」が、中年になったいま、休日の過ごし方に取って代わっている。他人に自慢できる充実とは無縁の私にも、自己満足に浸れる日なら稀にあって、最近の例は先月最後の日曜日だった。

ラグビーのリーグワンとバスケのBリーグが揃って決勝戦を迎え、大相撲夏場所は千秋楽、競馬の祭典・日本ダービーまで同じ日に集中開催された。ブレイブルーパス東京が初優勝したリーグワンの決勝は複数の識者が「史上最高」と評するほどの熱戦が展開され、初土俵から所要7場所の「史上最速」優勝を果たした大の里は角界のニューヒーローとなり、9番人気のダノンデサイルが逃げ切った日本ダービーでも、鞍上の横山典弘がG1レースを制した「史上最年長」ジョッキーとなった。

同じ日、横浜F・マリノスはACLの決勝でアル・アインに圧倒され悲願の初優勝に届かず、わが神戸は一昨年以来の連敗。他のスポーツから相次いで話題が発信されたとき、フットボールがこれに追随できないと、私のようなフリークは取り残されたような焦燥感に苛まれてしまう。4連勝のち2連敗、季節を先取りしたように神戸の状態が曇り始めたせいもあってか、ここひと月あまりのフットボールには明るい要素を見出しにくい。

1週間前、レアル・マドリーは2年ぶりにビッグイヤーを掲げ、史上最多の優勝回数を15回に伸ばした。前半はドルトムントに主導権を譲りながら、終わってみれば完勝。いかにもマドリーらしい優勝のなかで、いぶし銀の輝きを放ったのが引退を発表したトニ・クロースだ。サイドチェンジは受け手の足元にピタリと収まり、直接フリーキックは繰り返し枠を捉え、アントニオ・カルバハルの頭に合わせたコーナーキックで決勝点を導いた。ほぼ「止める」と「蹴る」に特化したようなプレースタイルは古き良きドイツの名手を体現しているが、双方を最高級まで高めれば現代でもトッププレイヤーになり得るということだろう。

いまなお最高峰で活躍できるレベルを維持したクロースには、まだ最後の舞台が残されている。来週に開幕が迫った、自国開催のユーロ。フットボールの梅雨入り気分に拍車をかけていたのは、その放送が直前になっても発表されないことだった。イングランドを相手に2点ビハインドも、ルイス・フィーゴのミドルを皮切りにポルトガルが逆転勝ちしたのは2000年大会。チェコが同じスコアでオランダに逆転勝ちし、伏兵ギリシャが優勝したのは2004年大会。高校から大学にかけて、ユーロの記憶に残るゲームは当時の友人に録画してもらったVHSのテープで観てきた。学生時代は敷居が高かったWOWOWにやっと加入したきっかけも、2016年大会だった。そんなユーロが観れなくなる時代がきたのか。諦めかけていた頃、ようやく吉報を届けてくれた。ありがとうWOWOW、おかげで現実よりずっと早く梅雨は明け、今月も自己満足に浸れそうだ。

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