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4文小説 Vol.19

暑さが一足飛びで訪れたような今年の夏、一雨ごとに蝉しぐれが喧しくなり、晴れ間の眩い陽射しは道端に深い影を落とし込む。

別段、共感できるわけではないが、近しい人びとからは総じて好意的な印象が聞かれるあたり、親しみやすく茶目っ気があったのも故人の一面だったらしく、花を手向けながら跪いて涙に暮れる人びとの姿を見ると、自分がひどく冷たい人間になってしまったように思えてくる。

思想や人となりについて、報道や論評を介して推察するしかない分際からすれば、煙が立っても有耶無耶のうちに鎮め、仲間内だけで物事を強行していくような姿勢は、いかにも小さく、卑しいとさえ映り、「こんな人たち」だって国民なのにという憤懣も燻って、美点も功績も見えにくかった。

過ぎた監視や防衛、言論の統制までもが正当化されることになりはしないか、先行きにどんな影響をもたらすのかと思案に耽っていたら、暗い木陰で仰向けの蝉をもう少しで踏むところだった。

―7月8日の出来事


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