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地元で一休み 第3のリベロ Vol.42

金曜夜のデパ地下、その日のおやつは即断できた。ポップアップストアが来ていて、北海道・十勝産の小豆を使用した目玉商品は鯛焼き。王道の粒あんと、金色が鮮やかな芋あんを選ぶ。紙袋にしたためられた文字は「一休」、待望の一休みに漕ぎ着けた気分に相応しい屋号が決め手になった。

自宅に帰るのは、月曜の朝以来。忙しさのあまり職場近くのアパートに入居を決め、最初の1週間を乗り切った。まだ引っ越し前、キャリーケースで運べる限りのものしか用意できず、薄手のマットとタオルケットが布団代わりだが、オフィス泊まりを経験した身には十分な寝床になる。けれども、近所のファミレスやコンビニでの食生活で炎症した口内には、手づくり料理の有り難さが染みた。

一夜明け、今日は地元で居ながらにして非日常気分を満喫した。須磨水族園からリニューアルしてひと月あまり、初めて訪れる須磨シーワールド。シャチとイルカのパフォーマンスに飽き足らず、30分以内で通えるのに、贅沢にもホテルへ宿泊した。たこ焼きの「風風」や焼き肉の「わかまつ」、見慣れた看板の向こう側には、20年あまり過ごした旧居も見える。そこから国道2号線を隔てただけの空間で、こんなにも身体のサビが落ち、心の毒が抜けるとは。

苦しい1ヶ月だった。異動3ヶ月目ともなれば大体の人は新たな仕事を軌道に乗せていくだろうが、私の境遇は正反対だ。泊まり込みや近所のアパート住まいを決行しても、仕事ははかどらずミスや遅延を重ね、上司や先輩はおろか歳下の同僚にまで迷惑をかけた。来週から数年ぶりに心療内科の通院に踏み切ることになったが、今日、テラスで潮風を頬に受けながらコーヒーを飲んで再認識した。どんな治療より私を救ってくれるのは、仕事を離れ、豊かな生活を取り戻すひとときなのだ。



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