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ヴィッセル神戸への歪な想い Footballがライフワーク Vol.19

前列右端に、フェイスガードを装着した宮本恒靖。深呼吸していたのか、後列で口を尖らせているのは戸田和幸。この赤いモヒカン頭が、あんな理知的な解説者になろうとは。懐かしのトルシエジャパンが並ぶ表紙に目を奪われ、数年ぶりに購入したNumberのタイトルは「日韓W杯20年後の告白」。当時は19歳の浪人生。予備校にほど近い三宮の駅前、デコボコ、あるいはもう少し卑猥な俗称もあった広場にスウェーデンとナイジェリアのサポーターが押し寄せた光景に、わが町でも確かにワールドカップが繰り広げられているのを実感したものだ。校舎に入れば予備校生たちがファッションアイテムと化した各国のユニフォームを纏い、ベッカムヘアも見かけた。世の中が、自らのもっとも好きなもので覆われたかのような、忘れがたいひと月あまり。産まれた子どもが成人になる時間が経っても鮮明に記憶していて、重ねた齢を感じる。

今年はJリーグも30年目の節目。しかしながら、わがヴィッセル神戸が危機に瀕していては、思い出話を続けるわけにはいかない。シーズンも折り返した19節終了時点で、よもやの最下位。連敗の無かった昨シーズンは、安定感を維持した初めての1年と言えるほどだった。前年に降格が無かった影響で例年より4試合多くなったなか、歴代最高の年間3位。2度目のACLに臨む今季も上位は手堅いと期待していたが、懸案だったトーマス・フェルマーレンの引退は想像以上に痛手となった。前に強いディフェンスやロングフィードという特長のみならず、的確なポジショニングやコーチングなど、目立たない面での貢献も大きかったのを思い知る。加えて、セルジ・サンペールの離脱でビルドアップの精度が低下、大迫勇也と武藤嘉紀がコンディション調整に悩んでは、苦戦は妥当かもしれない。だが全てを差し引いても、これほどの不振は不可解にさえ思える。

2004年の三木谷オーナーの就任以来、頻繁な監督交代は悪しき慣習として定着してしまった。今季もミゲル・アンヘル・ロティーナ
を諦め、3度目の監督交代。火中の栗拾いを託されたのは、3度目の指揮となる吉田孝行だ。2017年、ネルシーニョの後を担った第1期は9試合で5.67。ファン・マヌエル・リージョの前後を繋いだ2018年が17試合で5.50、2019年に至っては10試合で5.30。2011年以来、独断でつけてきた手元の採点表によれば、近年になるにつれ評価が低下している。終盤の活躍で残留に貢献した2010年をはじめ、現役時代のような存在感は失なわれ、便利使いされているような印象も含め明るい希望を抱くには難しい人選に思えた。繰り返される首の挿げ替え。これでは戦術の熟成、哲学の確立など望むべくもなく、2018年のアンドレス・イニエスタ加入を機に唱えられた「バルサ化」なるスローガンも、単に体裁の良いキャッチコピーの域を出ないまま、いまや雲散霧消してしまった。生え抜き選手の乏しさ、メンバーの平均在籍年数の短さなど、オーナーの方針には絶えず疑問がつきまといながら、クラブ存続の危機を救ってくれた恩義がある以上、誰もものを言えない内情は察するに余りある。

初陣となった鳥栖戦のクリーンシートは、相性の良さゆえだろうと冷静に受け止めた。直後に迎えたのが、残留を争う静岡の両雄との連戦。監督としての真価が問われ、クラブの命運が左右される正念場で、吉田体制は3期目にして明確な善処を施してくれた。基本システムは4-2-3-1。相手ボール時、ワントップの武藤に果敢な追い込みを課し、インサイドと両ワイドの中盤4枚を守備ブロックに組み込むことで、38歳を迎えたトップ下イニエスタの負荷は減り、自由が増した。GKは足元に優れたベテランの飯倉大樹に代え、高いライン設定が復活し、両サイドバックの攻撃参加を促した。清水戦はゴールマウスの横幅を肌感覚で知っているような大迫の後半アディショナルタイムの決勝点で制し、最下位を脱出。中2日で迎えた今晩の磐田戦、雨中のゲームは後半も30分を過ぎるまでスコアが動かなかったが、武藤が獲得したPKを大迫が決め、順位をもう一つ上げることに成功した。その場しのぎの連鎖、戦力に比例しない実力。わがクラブを客観的に見たとき、厳しい言葉はいくらでも思い浮かぶ。2019年のDAZN加入以来、リーグ戦は全試合観戦。心から応援しているのは間違いないが、実のところ、好きとは言い切れない。いつまでもうだつの上がらないこのクラブへ、私が抱く想いはいかにも歪だ。それでも、わが町にフットボールクラブが存在する日常は、20年前に世間を巻き込んだ非日常より大切にしたいと思うから、これからの巻き返しを信じている。

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