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アレが決まって 第3のリベロ Vol.33

私がもっと野球好きで、なおかつ阪神ファンであったなら、今年ほど愉しい年もないだろう。春にはWBCで侍JAPANが優勝したのに続いて、少しずつ秋めいてきたいま、タイガースが"アレ"を決めた。その瞬間くらいは一目観てみようと、当日は「サンテレビボックス席」の中継を視聴したが、関西地区の平均視聴率は20・8%。ビデオリサーチ社の調べになった1997年以降、同局では過去最高の数字を記録したという。テレビが観られなくなったこのご時世に新記録とは、ここ関西で阪神タイガースがいかに愛されているか、改めて実感している。

私の大学時代のタイガースは、星野仙一監督と岡田彰布監督の第一次政権のもと、4年間で2度セ・リーグを制した。1度目の2003年は日本一になった1985年以来18年ぶりの栄冠で、当時20歳の私に前回の記憶は無かった。同じ間隔を経た今年も、20歳未満の人たちにとっては記憶のなかで初めての体験となったことだろう。年齢を重ねれば等しい年月でも感じ方が大きく変わること、おおよそ人が成人になる周期でしか実現しないことが2年置きに起こったなんて、あの時代が貴重だったことを今さら思い知る。

先日は、バスケットボールの日本代表が脚光を浴びた。ワールドカップで3勝を挙げてアジア勢で最高成績を収め、48年ぶりとなる自力での五輪出場を決めた。自国開催だった2006年ワールドカップを最後に世界大会で1勝も挙げられず、一時は協会が処分を受けて参加さえ認められなかったチームの快挙。河村勇輝をはじめ小柄でも技術と俊敏性に優れた選手や、スリーポイントシュートの富永啓生など一芸に秀でた選手を重用し、日本の特長を活かして個々の役割を明確にしたトム・ホーバス監督の手腕は絶賛に値する。加えて、わが国には「スラムダンク」があった。赤木に三井に宮城に流川、そして桜木。バスケの強豪国ではないわが国にあって、もっとも有名なチームはいまだ湘北高校だろう。劇的な展開が漫画の名場面を彷彿とさせるなど、改めて影響力を称えられた作者・井上雄彦が歓喜に湧く世間に向けてSNS上で発信したのは、Bリーグの新シーズンの日程だった。あえてメッセージは添えずとも、現在の盛り上がりが日常へ波及してほしいとの願いが伝わる。なんと奥ゆかしく、深い愛情だろうか。

4番と1・2番、打線の軸が固定されて投手力は安定。日頃の観戦習慣が無い目にも、2位の広島に13ゲームも差をつけたチームが強い理由ははっきりとわかる。ただ、タイガースが羨ましいのは「いま強いから」ではない。この球団がファンの熱烈な応援を受けて関西全般のメディアに重宝がられるのは、20年に1度の黄金期に限らない。いくら低迷しようとも、うっかり目標を取り逃しても、それはそれで"ダメ虎"として愛でられてきた。勝とうが負けようが「いつでも愛される」。無条件の人気ほど盤石なものはなく、それこそは井上が今後の日本バスケ界へ願うことではないだろうか。明日の未明には、ラグビーワールドカップで日本代表がイングランド代表との大一番に臨む。つい金星を、4年前の大躍進の再現を期待したくなるが、ブレイブブロッサムズの末永い繁栄のためには、たとえ期待どおりにいかなくとも、阪神タイガースのようになってくれることを望んだほうがいいのだ。

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