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飲めずして、酔う Footballがライフワーク Vol.43

もう少し早く帰りたかったところが、解散は23時前だった。「人生、損してますよ」―少し飲めば顔が赤くなり、肌が痒くなることもある体質だと明かしたとき、口さがない後輩から言われた憶えがある。弱った心身をおして参加した久々の酒席も、愉しんでいるのはよく飲んで饒舌に語る人たちだった。砕けたトーク、気の利いた合いの手。各々がスキルを発揮するなか、何も持ち合わせていない自分に引け目を感じるのも、これまでどおり。割り勘のお代といい、私はいつも、飲み会で損してきたのだろう。

誘ってくれた同僚の好意はありがたいが、昨晩、何より楽しみだったのは帰宅後の"宴"だ。J1も後半へ折り返して第22節、神戸は「フライデーナイトJリーグ」でアウェーの広島戦に乗り込んだ。相手を背負いながら、ボールを収めてターン。この技量にかけて、大迫勇也は日本歴代でも筆頭ではないだろうか。大迫の十八番を起点に武藤嘉紀のクロスを山口蛍が詰めた3点目は、感嘆の声が漏れる"銘酒"だった。こんなスキルは、いくら見せつけられても、ただただ心地良い。

神戸の快勝を見届けた頃には夜も深くなり、"2次会"へと目を移す。ユーロは準々決勝に突入、1日目の2試合はドイツ対スペインと、フランス対ポルトガル。2008年大会と2016年大会の決勝が一夜で再現されるとは、いよいよ今大会の"メインディッシュ"が供された気になる。ダニ・オルモにフロリアン・ヴィルツと、互いに途中投入された技巧派が得点して延長にもつれこみ、ミケル・メリーノが最終盤に決勝点を挙げたスペインが2大会連続でベスト4へ進出した直後、仕事と飲み会で疲れた身体は寝落ちを避けられなかった。

食べきれなかった"シメ"は、間を置いても格別の味わいだった。私的な名勝負の条件には、敗者が印象に残ることと、ディフェンスのファインプレーが含まれる。裏へ抜け出したランダル・コロ・ムアニのシュートは、ルベン・ディアスがスライディングでブロック。私と同じ41歳のぺぺは14歳も若いマルキュス・テュラムに1度は振り切られながら、猛追してドリブルを阻み雄叫びを上げた。120分を通じてスコアは動かなかったが、疲弊している私の心は確かに動いた。2試合連続のPK戦の果てに敗者となったポルトガル、そのディフェンス陣の奮闘が際立ったこのゲームは、私にとって最新の名勝負になった。飲めない人生は損かもしれないが、何かに酔いしれることができたなら、人間はきっと救われる。心療内科に通い始めたいま、最高の良薬を再確認した。

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