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矛盾と反対の違い〈アリストテレス『命題論』、今道友信『アリストテレス』〉

ref.今道友信『アリストテレス』196-198頁

世間では二項対立がよく言われる。冷/熱、善/悪、絶対主義/相対主義、現実主義/理想主義、西洋/東洋、感情/理性、右翼/左翼とか、挙げれば切りがない。しかし、これら二項がどんな対立関係にあるかについての言及は、少なくとも世間一般ではあまり見ない。おそらく、多くの人はそれらしい二つを持ってきて、自分が分かりやすいように言葉のラベルで加工するだけになってしまっているからだと思う。今回はそうした曖昧な思考から離れて、対立について考えてみたい。

対立には、矛盾的な対立と反対的な対立がある。
対立とは二つのものの関係を表す言葉だ。(今回は、各々真偽を有する二つの命題に限定して話す。よって、概念と概念の関係は扱わない。ちなみに、命題に真偽はあっても、概念に真偽はない。概念が二つ以上組み合わさることによって、真偽を有する命題が構成される。)
そのため、上の二つの対立は二つのものの対立関係を表し、これはさらに、それぞれ矛盾的な対立関係、反対的な対立関係と換言できる。

1.自己肯定と自己否定の葛藤としての矛盾

矛盾的な対立関係とは、一方のものと一方のものの否定である他方のものの関係を指す。自己肯定と自己否定の関係とも言えるかもしれない。ちなみにこれは概念に関する用語が心理学用語へと転用された一例だ。

また、前提知識として、全称肯定と特称否定の関係と全称否定と特称肯定の関係は、一方の否定が他方であるような関係である。例えば、全ての人間は色白であることの否定は、全ての人間が色白であるのではないということで、これは、色白でない人間も存在する、つまりある人間は色白でないという特称否定だから、全称肯定の否定は特称否定であると分かる。全称否定と特称肯定もこうした関係にある。

また、一方のものと他方のものが同時に真(偽)になることはなく、お互いに真偽を異にするという特徴がある。
具体的に、この関係にある命題を挙げると(今道友信『アリストテレス』197頁の例をそのまま引用する)、

1-i)全称肯定/特称否定

全ての人間は色白である/ある人間は色白でない

色白a人間/色白o人間

1-ii)全称否定/特称肯定

全ての人間は色白でない/ある人間は色白である

色白e人間/色白i人間

2.両方で一つの全体を成す反対

反対的な対立関係とは、両方が互いに組み合わさることで、一つの全体を構成するような一方のものと他方のものとの関係を指す。
また、両方の真偽が一致するという特徴がある。
具体例を挙げると、

2-i)全称肯定/全称否定

全ての人間は正しい/全ての人間は正しくない

正しいa人間/正しいe人間

2-ii)特称肯定/特称否定

ある人間は色白である/ある人間は色白くない

色白i人間/色白e人間

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