【漫画原作】イケメン俳優の弟に成り代わりってアリですか?【第ニ話】

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本文

〇昼間 病室 

ヨウ「……だから姉ちゃん、オレの代わりにクルゼイロに出て」

・一瞬、シンとなる病室。恐る恐る話し出すアキ。

アキ「……何? 代わり……? ヨウの役って女の子の役なの……?」
ヨウ「違うよ。主人公のライバルの役。男キャラだよ」

・真顔のままのヨウ、真剣な顔でアキを見つめたまま言う。

ヨウ「オレの代わりに、……姉ちゃんが【須郷ヨウ】として……舞台に出て欲しいんだ」
アキ「はあ!? な……何それ!? 無理に決まってるじゃん!」
??「と言ってるが……どうする? ヨウ」

・バッと男の方に顔を向けるアキ。相変わらず品定めするような目で見てくる。

ヨウ「……でもオレは無理じゃないって思ってるんで。……姉ちゃん、こちらオレをスカウトしてくれた、事務所の社長の海城さん」
海城「……どうも、ヨウ君の……やる前から否定で入る後ろ向きなお姉さま」
アキ「な……」

・初対面の年上の男性から真顔でそんなことを言われて驚くアキ。驚きがすぐ怒りに変わる。

アキ(何って嫌味で失礼な……ていうか無理なものは無理っていうのがあるでしょ……一瞬かっこいいとか思っちゃったのがむかつく!)

ヨウ「……ちょっと、海城さんから説明してもらってもいいですか。……オレ、ちょっと足痛くなってきちゃって」
アキ「ええ!? 大丈夫なの…!?」

・ベッドに掴みかかる勢いを見せたアキに、弱々しく笑って見せるヨウ。その本気の心配をした顔をじっと眺める海城。

海城「いいだろう。……須郷アキ、少し付き合ってもらう。……ヨウ、すぐ戻るが、痛むようなら看護師を呼べよ」

・そう言ってついてこいと視線で訴える海城。むかつきながらもついていくアキ。

〇昼間 病院内 カフェ

・むすっとした顔のアキ、ひょうひょうとした顔でコーヒーを飲む海城。

海城「挨拶がまだだったな。こういう者です」

・海城の名刺を渡される。覗き込んだ先には
【(株)フィレンツェ 代表取締役 海城 光】
という記載。

アキ「どうも。……でもあなたの怪しさ、名刺一枚じゃ何も緩和されませんけど」
海城「怪しい? 初めて言われたなあ」
アキ「…………そうですか」

・ずっとひょうひょうとした態度の海城に対して、警戒心をむき出しにするアキ。

アキ「それで、……どういう事なんですか? 先にヨウと話してたみたいですけど」
海城「……どういう事もこういう事もない。話はシンプルだ。君が【須郷ヨウ】を演じて、舞台に出て、無事に千秋楽まで駆け抜ける。期間は大体2か月くらいを乗り越えられればいい」
アキ「簡単そうにそんな……他人のフリしろ、って言ってるんですよ、あんまりにも……突拍子もないし、現実的じゃあない……」

・隠せない動揺を見せながらもなんとか冷静に言おうとするアキに、静かに言う海城。

海城「ヨウに才能があるのは、姉のあなたも知ってるんじゃないですか」
海城「それに、才能があるけれど……あなたの影で消されてきたということも」
アキ「!」

・自分ひとりで考えてきたことと同じことを指摘され、何も言えなくなるアキ。

海城「正直うちは小さい事務所だ。せっかくの大きな役を反故にしても次の話をヨウに持っていってやれるかはわからない。そのふがいなさはただただ謝るしかない。……だが、あんたがかわりにヨウに【なって】くれるなら、話は全く違う」
海城「最初にこの話を持ち込んだのはヨウだ。ヨウが、君なら出来ると言い出した。ずいぶん信用されてるな」
アキ「……」

アキ(……なんか信じられなさすぎて……考えがまとまらない……ヨウが私ならって言ったって?)

海城「……正直君のビジュアルを見たら、オレもやれる、と思ったよ。君たちは良く似ている。背格好も体格も近い印象なのは驚いた。……まあ君の方が、ヨウよりも険がある印象だがな。……役には合う」

・眉を寄せたまま海城をじっと見つめるアキ。

アキ(……なんなんだこの人……やけにオーラがあるんだよな……)

アキ「……ヨウのフリして、男として稽古して、舞台に立て、ってことですか」
海城「最初からそう言ってる。それに尽きるって話をしている。……オレからは、頭を下げることはしない。……決めるのはきみたちだ。オレは、君たち姉弟にかけるだけだ」

〇夜 アキの自宅マンション アキの自室

・部屋の中、ベッドで寝転がりながらスマホで映像を見ている。2.5次元舞台の映像。

アキ(……なんていうか、……想像してたよりギラギラしてるな……ていうか……ほんとにキャストが男の子しかいない)

・映像の中で、色とりどりの衣装やウィッグを身に着け、歌い踊る青年たち。

アキ(……舞台だ、当たり前だけど……)

・アキの頭の中に浮かぶ、スポットライトを浴びた時の高揚感。焼けるような熱の中で、目いっぱい身体を伸ばして飛ぶ快感。

アキ(……きっと、忘れられない。)

・舞台の上で武器で戦っている姿、おどける姿……じっと見ていたアキ、突然身体をがばりと持ち上げて叫ぶ。

アキ「は!? こんな事もすんの!?」

客席に降りて、観客に向かってウインクをしたり投げキッスしたりしているシーンになって驚きの表情を浮かべるアキ。

アキ(これってアイドル…? わからない……。自分が知ってる世界と違いすぎる……ていうかこれ歌もある……? 女の子にファンサ?するの……?)

アキ(……出来るわけが……)

・ヨウが、数日前、自分の部屋で嬉しそうに「舞台に出る」と言ってきたことを思い出す。

アキ(……あんな顔するんだ、……あんな顔してたのに)

・病室で泣いているヨウの姿、涙の痕を残しながらも「でもオレは無理じゃないって思ってる」と言い切った時の顔が浮かぶ。

アキの母「アキちゃん、ごはんできたよ! 食べられる……?」

アキ「はーい、今行く!」

〇夜 アキの自宅マンション リビング

・食事しながら会話する二人。

アキの母「ヨウくんから、舞台に代わりに出てってお願いしたって聞いたよ」
アキ「……そう、だけど……正直、ビックリしちゃって」

アキの母「そうよね、お母さんも聞いてびっくりしちゃって……いいの、アキちゃんは無理しないで。ゆっくりやりたいことを探せばいいからね。大学いくとか、バレエの先生を目指すとか……何でもやってみたらいいと思うの」
アキ「なんでも……」

アキ(……大学に行くのも、バレエの先生になるのも、誰でも出来る。……でも、【須郷ヨウ】として舞台に立つことは、私にしかできない――)

・アキの頭の中に、ヨウの泣き顔と海城の人を馬鹿にしたような態度がフラッシュバックする。

アキ(……私はまた、弟をひとりで部屋に置いていくの?)

・そう思った瞬間、テーブルに置いていたアキのスマホが震える。ヨウからの着信。変なこと言ってごめん、というところで通知メッセージが途切れている。

アキ(……またこっちへの気遣いばっかりしてる)

アキの母「ヨウくんの事、許してあげてね。事故で動転しているみたいだから」
アキ「お母さん」

・アキ、箸をおいて静かに言う。

アキ「許してもらうのはきっと、私たちの方だよ。ヨウの優しさとか、我慢強さとかに甘えてた、私たちの方」

アキ(……この世に私しかできない事があるのはきっと、幸福なことだ)

〇夜 アキの自宅マンション 洗面台  

・洗面台の前で、ハサミを持っているアキ。

アキ(美容院行くのを待ってたら、覚悟がぼやける)

・適当にひっつかんだ髪に、真横からハサミを入れる。ざくざくと切っていく、ばらばらと洗面台に髪がこぼれていく。
・じょきじょき嫌な音がする、無理やり頭を傾けてハサミを入れ続ける。ついに最後まで切れる。

アキ「……ふぅっ……頭軽っ」

・鏡の中には、首の長さ位で毛先が斜めになった妙な頭になったアキ。

アキ(……こんなに短くしたの、人生で初めてだ。人生ではじめて、お団子が作れない頭になってる)

アキ(明日美容院行って直してもらわないとな……)

・鏡の中の自分を見つめながら囁くアキ。

アキ「……私、出るよ」
アキ(……海城って人のためにもなりそうなのは癪だけど……)

アキ「……ヨウ。私あんたのために、世界中を騙して、真実を隠す……その覚悟、してやるよ」

アキ「私の人生から二か月を、あなたにあげる」


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