【漫画原作】イケメン俳優の弟に成り代わりってアリですか?【第三話】

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〇昼間 舞台の稽古場
・広い稽古場、長テーブルが四角く並べられている。多くの人が座っている。
顔合わせが行われている。

・金髪センター分けの青年が立ち上がってぺこりと頭を下げる。ヨウの見た目に近づけたアキ。

アキ「……特殊警察クルゼイロ、マイセン役の――須郷ヨウです」

〇過去 昼間 ヨウの病室

・ベッドに寝ているヨウ、スーツで腕組みをしている海城。
帽子を屋内でもかぶっているアキ。

アキ「……やるよ。ヨウになる作戦」

・ぱっと嬉しそうな顔をするヨウと、まだ険しい顔のままの海城。

ヨウ「ね、言ったでしょ? やってくれるって思ってた!!」

アキ「やるからには……全部、毎日起きたこととかできる限りヨウに伝えるから、あんたも死ぬ気で覚えて」

海城「よく言った。さっそく準備を始めよう……だが、その帽子なんだ?」
アキ「……」

・帽子を取って見せるアキ。昨日勢いで切ったざんばら頭が出てくる。

ヨウ「うっわ……すっげー頭……」
アキ「素直に引かれると傷つくな……」

海城「……まずは美容院だな。……じゃあなヨウ、こいつをお前そっくりにするから待ってろ」
アキ「ちょっと……乱暴にしないで!」

・アキの帽子をかぶせ直して、腕を引っ張っていこうとする海城。引っ張られながらヨウに声をかけるアキ。

アキ「ヨウ! これは私とアンタでやる仕事だからね! 代わりにやってるってわけじゃないから、二人でやるんだからね!」

・アキの言葉に、嬉しそうに笑って手を振って見せるヨウ。引きずられていくアキ。

〇「ヨウ」になるまでをカットごと、ダイジェストで見せる。

・美容院で座ら去られているアキ。髪を切られて金髪に。

・服屋で、体格がよく見えるような服を着せられまくって持たされまくっている。

・ボイトレと演技のレッスン。慣れない事で戸惑った顔、叱られているアキ。

〇過去 夜 レッスン室
・慣れない事に疲れた様子のアキ。レッスン室でぐったりしている。

アキ(……最近、全然サボってたけど……基礎体力はヨウよりよっぽどあるはずなのに、……キッツい)
海城「へばってんなよ」

・言いながら、飲み物を差し出してくる海城。無言で受け取るアキ。

海城「……いや、でも思ってたより根性あるよ、あんた」
アキ「そりゃ……どーも」
海城「しゃべり方もそんなんがいいだろうな。明日の稽古初日、期待してんぞ。……お姉さま」

・口調と裏腹に、顔はずいぶん優しい。ニヤっと笑ってアキの髪をくしゃりとかき混ぜる。

アキ(……クソ、顔だけは良いんだよこの人ほんとさあ……むかつく……)

アキ「言われなくてもやってやるよ!」

〇現在 昼間 舞台の稽古場

・俳優たち、ラフな稽古着でめいめい立ち位置に立っている。

アキ(……顔合わせとか、読み合わせとか……机の上でやるやつはどうにかなった。立ち稽古で違和感が見えなければ……たぶんいける) 

・隣からアキを睨む青年が口を開く。

彰「セリフちゃんと入ってんのか? 須郷……初舞台だからこそ、最低限セリフ入れるのは早くないと置いてかれるぞ」
アキ「……入れてあるよ、どーも」

アキ(……失言してから、こいつ……彰さんのあたりがキツイ……。めちゃくちゃ真面目なのはいいんだけどさ……。ヨウごめん、こいつとは仲悪くなるかも)

〇過去回想 稽古場

・休憩時間にめいめい仲良く会話してる俳優たち。自撮りをとりあったり、穏やかな雰囲気。
ちょっと距離を置いているアキ。

アキ(……もちろんバレエにも男の人はいたけど……他全員男っていうのは……ちょっと緊張するな……)

アキ(……そして……)

・キョロキョロと彼らを見回す。

アキ(……みんな残らず、顔がいいッ……! 目がつぶれそう……)

・きらきらを背負っている青年たち。まぶしさに目がしぱしぱしているアキ。
・緊張で顔がこわばっているように見える。それに気づいた先輩俳優:蓮がアキに声をかける。

蓮「そういや、ヨウくんって今回初舞台なんやって? 何か不安なこととかない? ていうか役作り? 体重だいぶ絞ったのいい感じじゃん」

・ドキッ、とするアキ。

アキ(体重……! は、正直増やせなかったんだけど、結果オーライてこと? いやでも…あー……ちょっとそこから話題ずらさないと……)

アキ「あ! えー……もう緊張し通しっていうか……もう不安じゃない事もないっていうか……」
蓮「言い方~! でも何かない? 先輩ぶりたいだけだからさ~」
アキ「……しいて言えば、客降りとか、ファンサとか……出来るかわかんないなって……何か、それってもう舞台じゃないじゃないですか……なんていうんだろ……」

・素直に、自分にとって不安に思っていたところを吐露するアキ。
それを、みんなの輪に入らずずっと一人で台本を見ていた男:彰が聞いて険しい表情で顔を上げる。

彰「表現に貴賤があるみたいな言い方だな」
アキ「え……全然、そんなつもりは」

・バタン、と台本を閉じて立ち上がって寄ってくる彰。稽古場がシンとなる。

彰「客はそれに時間を、仕事で得た金を割いてくるんだ、お前はその人たちに売るんだよ、自分のパフォーマンスを」

・ぎろり、と睨みながらこちらを見つめる彰。

彰「たとえオープンな場じゃなくても、そういう言い方するな。士気が下がる」
アキ「……悪い、軽率、だった」

アキ(……私……勝手に、バレエと比べてた、バレエより……大衆向けだからって? ひどい偏見だ……)

・自分が恥ずかしくなるアキ。目つきが変わる。

〇現在 昼間 稽古場

アキ(彰との仲は相変わらずだけど、正直あれで意識変わったし、……みんなと舞台を作るのは楽しい)

・セリフを言いながら、蓮と刀をぶつけあうアキのカットの上にモノローグ。

アキ(喜んでいいのか悪いのか、誰も私が女だとは気づかず接してくれる)

・回想カット:肩くんだり、笑いがツボに入って乱暴にバシバシ背中をたたいたり。

アキ(私がやってきた形のバレエより、みんなでゴールを目指すのが楽しいな……ずっと稽古してたい気持ちと、早く見て欲しい気持ちと……)

・稽古が終わる。バラバラと帰っていく他の役者たち。

蓮「またヨウは自主練してくん?」
アキ「はい! やっぱ一番初心者なので……はやく蓮さんに追いつけるように!」
蓮「かわええ事言うよなぁ! 気をつけてな、無理はせんように」

アキ(蓮さんは、凄い優しい。……蓮さんなら、本当の事を話してもいいんじゃないかな……)

・蓮が帰っていく姿を見送る。
・一人になってから、改めて台本を取り出し、スマホで録画した映像を見ながらアキは一人で練習を続ける。

-時間経過-

アキ(……そろそろ……帰るか、鍵……守衛室に返していかないと……)

・汗だくで、稽古場の中で荷物置き兼着替えゾーンとして区切られたところに入るアキ。

アキ(……着替えとか、頑張って汗拭いて最低限にしてたけど……まあいいか、こんだけ遅けりゃ誰も残ってないでしょ……)

・濡れたシャツを脱ぎ捨て、汗拭きシートで汗をぬぐう。
・胸をつぶす下着を取って汗をきっちり拭くかとうか迷っていると、突然、がったんと大きな音がして慌てて振り返る。

彰「な……なんだ、それ……どういうことだ……?」

・驚いた顔でアキの背中を見た彰、しばらく見つめてしまってからハッとなったように目を反らす。耳が赤くなっている。

彰「いや、悪い、ほんと……すまなかった、なんか……ちょっとわかんなくなってる、から頭冷やす」
アキ「……ッ……彰さん、待って、違う、いや違わないけど、待って!!!」

・逃げ出そうとする彰を見て、説明せずに返したらヤバいと慌てるアキ。彰を捕まえようとして、自分のカバンに足をひっかけてしまう。

アキ「う、わッ……!」

・大きな音を立てて二人で床に転がる。
・勢いよく彰を押し倒してしまった事に気付いて、驚いて目を見開く。アキもパニック。

アキ「ご、ごめん、マジで……あの……なんていうか……」

アキ(……あれ……?)

・自分の身体の下で、赤い顔でパニックになる彰。クールで人との関係がどうなってもいいような彰の、見たこともないような顔を見て驚く。

アキ(……なんかこの人、かわいい……?)


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