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調剤過誤と薬剤師

無いわー
薬局側のミスもひどいけど、記事も間違えてること多いw
というか、ちょっと記事見ててミステリーな部分もあるなぁ。
以下、その理由をお話します。

スギ薬局で「糖尿病薬混入」の調剤ミス、74歳女性が半年後に死亡…遺族が3850万円賠償求め提訴

都内在住の高齢女性が死亡したのは、薬局のミスで出された薬が原因だとして、女性の遺族は8月28日、全国にドラッグストアを展開するスギ薬局(本社:愛知県大府市)と従業員の薬剤師ら3人を相手取り、計約3850万円の損害賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。

2024.8.28弁護士ドットコムニュース

2021年に起こった調剤過誤による死亡だそうだ。

⚫︎処方された内服薬に誤りがあった

訴状によると、体が動きにくくなる持病があった田村さんは訪問診療を受けていた。2021年10月18日、医師から出された処方箋をスギ薬局の都内店舗に送り、この店で調剤された薬が担当者によって自宅に届けられた。

田村さんが処方された内服薬を毎食後に服用していたところ、11月14日になって体調が急変。一時は落ち着いたものの、翌15日になって意識不明となり、救急搬送された病院で低血糖脳症が疑われた。

搬送先の病院は、内服薬の中に「お薬手帳」に記載のない糖尿病薬があったことから、スギ薬局に照会をかけたところ、調剤に誤りがあることが判明したという。

女性の意識レベルはそのまま改善せず、およそ半年後の2022年5月2日に亡くなった。死亡時の死亡診断書には、直接の死因(心不全)の原因として「低血糖後脳症」と記載されている。

2024.8.28弁護士ドットコムニュース

10月18日に処方された薬を11月14日に飲んで低血糖を起こしているから、血糖の薬が入っていたのは最後のあたりだろう・・・・と思ったのだが。

11月14日の夕食中に大量の汗をかいて目玉が上転し意識を失ったので食事を中断したが、次第におちついて食事を再開。20時頃にはいつもどおり会話ができる状態だったそう。そしていつも通り21時に就寝。
しかし、翌15日に再び意識を失って救急搬送され、脳のMRI画像などを取ったそうだけれど、この時点で脳症を起こしていることが発覚。持参した残薬を病院の薬剤師が確認したところ、お薬手帳に記載のないメトホルミン塩酸塩錠250mg、グリメピリドOD錠1mgの2種類が含まれていることに気がついてスギ薬局に確認の電話が入ったらしい。

まあ、食事を食べたから、低血糖から回復したんだろう。で、翌日倒れた?
あれ?グリメピリドの作用から考えて夜中に低血糖起こしそうだよね・・・と思っていたら日経DIの記事で以下のような記述を見つけた。

2021年10月18日に、女性はいつものようにスギ薬局に処方箋をファクスで送付。薬剤師は自動分包機を使って一包化作業を行ったが、分包機に直前の患者に処方された糖尿病治療薬が残っていることを見落としていた。そのため、28包中7包が、処方上の2.5錠より2錠多い4.5錠で包装されて出てきた。しかし、処方より多い錠数が入っている薬包があることは処方鑑査の過程で見逃された。

2024/08/30 日経DI調剤ミスで患者死亡か、遺族がスギ薬局を提訴

リンク先の記事は会員サイトだから、普通に入ってもログインしないと見れないと思う。申し訳ない。ただ、その2錠多く入っている画像については上記の記事の弁護士ドットコムのほうにも出されている。

あれ・・・?

ニュースに出ている分包された薬は夕食後のものだけだ。
そのうち11月15日と11月16日の袋に錠剤が4錠半入っているのがわかる。
でも、それ以降の夕食後には2錠半の薬しか入っていない。

わたしは、28包7包にと書いてあることから、夕食後の薬に連続して7日分入っているものだと思っていた。でも、夕食後だけに入っていたとしたら、この2包と14日に飲んだ1包しか確認できない。4包どこいった?
もしかすると・・・。

これ反復分包かもしれないな~。

一般的に朝・昼・夕で飲む薬の内容が異なる場合は、朝食後で日数分、昼食後で日数分、夕食後で日数分を分包する。だから、朝 朝 朝・・・・昼 昼 昼・・・ 夕 夕 夕・・・って同じ用法のが続いて出てくるのね。こういう分包の仕方を連続分包っていう。
でも、反復分包にすると 11月14日 朝食後、11月14日昼食後、11月14日夕食後、11月15日 朝食後、11月15日 昼食後・・・なんて風に、飲む順番につながって出てくる。

だから、もしかすると、11月15日と16日の朝食後と昼食後にも糖尿の薬が入っていたのかも知れない。そうすると、最初の低血糖を起こした翌朝も血糖の薬を飲むわけだから、もう1回低血糖を起こすよね。
しかも、メトホルミンで糖新生も抑えられてるから、どうにも回復しようがない。そこから意識が戻ること無く、脳症で半年間意識がないまま心不全で亡くなってしまったわけだ。

まあ、これ、はっきり言って薬剤師に責任があることに疑いの余地はないよね。メトホルミンって250mgでも結構大きな錠剤だし、グリメピリドって1mgはケミファとか全星とかのOD錠を除いては大抵ピンク。(監査しづらいから白い錠剤にするのはやめてほしい)だから、調剤監査をしていたら見落とすなんて考えられないんだけど・・・、いや、それだけでなく、常に意識して頭を使って監査をしてたら、気付けるタイミングはいくらでもあった

まあ、糖尿のない人にいきなり夕食後で糖尿の薬が2種類出るなんて、まあそれだけでおかしい。もし、反復分包だったとしても、数日間だけそんなにガッツリ糖尿の薬が出るなんてあり得ない。
というか、グリメピリドの作用時間ってのが結構長くて、朝食後に薬を飲んで夕飯の支度をしていたら低血糖なんてひとがよくいる。だから、夕食後に1回飲んで、すぐに低血糖を起こさなくても夜中に低血糖で昏睡状態になっちゃうなんてことも無いとは言えない。
それに加えてメトホルミンも飲んでいるから解糖系からも糖が出てこない。
コワイコワイコワイ

糖尿のない人に出るはずの無い薬だし、メトホルミンだけでなくグリメピリドが今まで糖尿が無かったひとが糖尿になったとしても、いきなり出るなんてことはない。このへん、糖尿とわかった時点でもファーストチョイスには使わないんだ。更に言えば、途中の数日間だけ出るなんてことはない。

よっぽどポンコツな薬剤師じゃない限りは、糖尿の薬に関してはかなり警戒感を持って見ている。7回分だけ入っていたなら、その前の患者さんが7回分薬が少なく入っていたか、あるいは、あるいは28日分手まきで撒いたけど21日分だったとか?前後の患者さんの一包化もおかしいはずなんだよね。
糖尿の薬が7回分行方不明なんて怖すぎる。1錠でも足りなかったらびびって探すよ。

日経DIの記事ではこんなことも書いてある。

調剤過誤の発生当時、スギ薬局の調剤マニュアルには、(1)調剤前に前回調剤時の残存薬剤や異物がないかを確認する工程、(2)自動分包機に上段と下段があるときは、上段のみならず目視できない下段についても残存薬剤や異物がないかの確認をする必要性の指摘、(3)自動分包機の下段に残存薬剤や異物がないか確認する操作手順の説明──が欠落していたという。

2024/08/30 日経DI調剤ミスで患者死亡か、遺族がスギ薬局を提訴

いやいや、そんな問題じゃなくない?それはもちろん必要なことだけれど、そもそも分包後の薬剤をちゃんと監査していたら、こんなミスにはならないよ。

調剤マニュアルっていうのは、チェーン店だろうが個人店だろうが関係なく、各薬局に備えられている「医薬品の安全使用のための業務手順書」というやつだ。定期的に見直しをして改訂することが義務付けられてもいる。
本来は、その薬局において必要な手順や注意がこと細かく書かれているものだけれど、大手チェーン薬局は特にこれが義務付けられた当初に考えられた一般的な内容のものを置いておいて、中身を精査も改定もせず、ずーっと改定年月日だけを表紙に追記して同じものをただ置いてあるだけのところも多い。
要するにあまり真面目にやっていない薬局が多いってこと。

でもね、ちゃんとやっているところはやっているんだよ。
埼玉で30店舗くらいのチェーン店のところにいたときは、毎年医療安全のための研修ってのを店舗のメンバーに行って、ちょっとしたヒヤリハットも統計をとって、ミスや過誤を限りなく0に近づけるための工夫をして、毎年手順書を改定していた。
エリアマネージャーにちくちく言われて、改定の理由やその根拠となるデータも提出して、店長会議でお互いの手順書をみてあーだこーだと検討し合うというものすごーくダルいことをやっていた。

まあ、毎回改訂なんかしなくても、ちゃんと基本を守って安全にやっていれば良いんじゃないかなーとは思うんだ。

しかし

こんなもん、法で決められてるからやるだけだと思ってる輩が結構いるよ。
しかも、大手チェーン店。
いや、マニュアル通りじゃなくても安全に十分注意して業務が行われていれば、それはそれで良いんだと思うよ。けど、そうじゃない。

薬の量がおかしいから、疑義照会しようとすると
「目つけられると嫌だからやめて」
といって止めるアホがいます。

あとね、一包化を監査していると、
「機械でやってるんだから間違いないだろ。早く出せ」
と、文句をいう患者もいる。

あとね、別にボケてもいないし、若くて判断力も問題ないのに
「面倒くさいから一包化して」
という患者もいる。(いやいや、それ、保険で通らないよ?)

話がそれちゃった・・・

いや、多分ね。スギに勤めたことないからわからないけど、そういう業務の安全性に対する指導が出来ていないんだよね。
だって、上記の問い合わせをさせない薬局長、前職はスギ薬局だからねーw

マトモな神経をしている薬剤師は、自分のミスが患者の命にかかわるってことくらいちゃんと理解している。

過去、調剤過誤をやって自殺した薬剤師もいるよ。
もう20年以上前だけど、セルテクト細粒(抗ヒスタミン剤)のボトルにセレネース細粒(抗精神病薬)を充填してしまって、複数の子供が痙攣を起こして入院した事件があった。これは、調剤した薬剤師が自殺したよ。

まあ、どっちも白い粉だし、充填を間違ってしまえば充填ミスに気づくことは難しい。すごーく注意力があれば、秤量するときにセルテクトのほうが粉が重い感じなのでスパーテルの感触で気づくかも知れないけど・・・忙しくしていたら違和感は感じ無い。
病院に勤めていた時に、ある日パントシンを図ろうとしたら、アルミゲルみたいに感触が軽くて、薬局長に訴えたことがある。
薬局長は、ちょっと感触に違和感があることは同意したけど、でも混じっているのが何かわからないから、瓶ごと破棄するように指示してきた。
粉薬、白いのがほとんどだから、充填を間違えたらコワイよね。

もうひとりは、これは15年くらい前かな。
埼玉県の薬局で、毒薬のウブレチドを酸化マグネシウムの錠剤のところにセットして、複数の患者に2000錠以上誤って交付されてしまった事故。
これは、分包機の酸化マグネシウムの錠剤のところにウブレチドが入ったカセット(っていうか筒状なのよね、あのメーカー)を入れてしまってたことが原因。
ATCと呼ばれていたこの分包機は、カセットの入れ替えが簡単に出来てしまうので、1つのアドレスに複数の薬を登録していたんだよね。

けれど、毒薬は入荷したときも交付したときも帳簿をつけて残数を管理しなきゃいけない薬なので、本来は分包機のカセットに入れることはないの。
でも、業務の効率を優先して、原則を無視してカセットを作ってしまったんだと思う。しかも、オーナーが早く出せ、監査なんかしなくていいって考えの人だったらしくて、ちゃんとチェックをさせてもらえなかった。

この事件では(こんなのもう、事故じゃなくて事件だよね)高齢の女性が服用開始の1週間後に亡くなった。
毒薬なのに結構大丈夫だったんだねと思うかもしれない。
その他のひとは助かってるんだからね。
でも、これには理由がある。ウブレチドっていうのは、今は1日1錠しか服用させられない薬になっているけれど、わたしが薬剤師になったばかりの頃は1日4錠まで使える薬だったのだ。
高齢者で排尿障害がある患者に、かなり出ていた。

効き方に個人差があるので、飲める量に幅があったのだけれど、効きすぎてしまえばコリン作動世クリーゼという状態になって、唾液や汗がダラダラ出て吐いたり下したり、意識障害や呼吸困難を起こしたり・・・コワイ薬でもあるんだよ。だから、死亡したおばあちゃんも、亡くなるまでの1週間はかなり苦しかったはず。

これだって、分包したあとの薬を監査していれば、気付いたはず。
この事例も、年配の管理薬剤師が自殺した。

効率ばかりを重視して、早く早くといえば、事故は増えるのだ。

患者さんでも一包化に時間がかかると怒る人もいるんだよね。
でも、安全のためにやってるの。人のことを責めるけど、自分で管理できないから一包化にするんでしょう?だったら待てないとか言うんじゃないよ。
死にたいのか?

まあ、記事の事件の場合は、在宅で薬剤師が配薬までやってたわけだから、全面的に薬剤師の責任とは言えるんだけれど、もともとは薬の数は少なかったわけだよね。判断力が落ちているひととかは仕方が無いと思うけれど、なんでもかんでも一包化にしろとか言われるのには腹が立つよ。

ぶっちゃけ、これだけ薬が違ったら、普段から面倒をみている家族とかヘルパーとか気が付かないかな? 何でも薬局のせい?

わたし、この件に関してひとつ疑っていることがあるの。
薬局が在宅調剤にしたいっていうと、500円余計にかかるから嫌だといって配達だけしかさせないところがあるの。施設なんかは患者さんから受け取るお金をできるだけ薬局のほうに払いたくないっていうのもある。(薬代は別に請求だからね)
記事にも配達担当の薬剤師がって書いてあるでしょう?
配達担当って何よ?在宅担当だよ。
でも、中には、お薬カレンダーにセットさせて玄関口まで持ってこさせるだけってところとか、カレンダーと薬の配達だけっていうのも結構あるんだよ。
でも、それじゃ訴訟のときにそこが問題になる。だから、薬剤師がリビングのお薬カレンダーにセットした。って言い方になってるんじゃないかな?って。そうすると、『リビングで』カレンダーにセットしたとは言っていないわけだから、本当に配達だけさせられているのかも?

そして、分包が反復になっていたかも知れないってこと・・・。これは調剤する側としては、調剤も監査もしにくいんだよね。だから薬剤師側がカレンダーにセットするのであれば、通常はそんなやり方はしない。
もしかしてだけど、反復にしておけば、本人か家族、あるいは施設に入っていたら職員・・・が自分たちで端から切ってセットしていくにはすごくやりやすいというか簡単になる。だから、本当は在宅じゃなくてただの配達だったんじゃないのかなと疑っている。

患者側は、薬剤師は良い給料もらっているって思ってるかも知れないけど、いやいや・・・生涯年収低いんですよ。
パートの時給だけみてたら、そこいらへんの主婦のパートより高いだろうけれど、そりゃ知識も資格も必要な仕事でそんなもんだったら、やってられないよ。

そもそも薬の公定価格と仕入れの値段が11%ほどしか差がないし、薬価より仕入れが高い薬もあるし、そこに消費税10%を載せられて仕入れるので、薬からは全く利益が出ない仕組みになっている。(患者さんのお会計には消費税が乗らない仕組みになってるのよ)その上一包化までやることになると、保険調剤の範囲で人件費まで賄えてるなんてことは無いんだよ。

保険調剤はもう、儲かりませんのでーーーーーー。
明日から閉店しますっていったら、それでOKなの?

国が財源がないことについては、医療機関側に負担がかかってるのが現状。
たとえば、健康保険がなかったとしても、日本の医療っていうのはかなり安価なのだ。自分たちの負担が安いからって、なんでも医療側にやらせないことだ。

患者様はお客様じゃない。
医療保険を挟んで契約で結ばれている対等な関係だ。
わたしたちは患者の奴隷じゃない。

それでも、ミスをした薬剤師を庇うことはできないな・・・。
でも、ミスをするような背景があったことについては、まず間違いないだろうなと思う。


そして追記

そしても、記事をよく読んでいるとうひとつすごくおかしなことがある。
記事では全く問題にされていないみたいに感じるけれど、『夕食後』に飲むはずの薬による低血糖が食事中に出ていること。

これは、指示が食後であったにもかかわらず、食前に飲んでしまっているということだ。「眼球が上転し・・・」という状態を誰かが見ているのだからひとりでは無かったはずだし、グリメピリドは食直前に飲むことはよくあることだけれど、低血糖を起こしたタイミングから考えて食事の30分以上前に飲んでいると推測できる。

服薬状況を管理出来ていなかったんじゃないかな?ちゃんとした在宅をさせてもらっていないとか、薬をもらうだけもらって、きちんと説明うけてないってことかな。

もしかするとこんな矛盾点が、裁判を長引かせたりしている原因のひとつでもあるのかなー

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