見出し画像

「愛の不時着」 リ・ジョンヒョクの言葉–––「僕がいるから、、、そばにいなくても」(すべてネタバレです)

                     (写真はNetflix より転載)

「愛の不時着」は不思議なドラマである。繰り返し見てしまう中毒性はどこから来るのか。ラブコメと言われたこのドラマに何故自分がハマるのか、我ながら驚いている。「生物学的年齢からの自由」(オードリー・タン著書「自由への手紙」から)をこの時実感した次第だ。このドラマに流れる通奏低音は、哀しさである。

南北の問題がある限りこの2人は結ばれない。どんなにときめくシーンや言葉があっても、また楽しい時が流れても、私達はこの哀しみを常に感じている。ときめきと哀しさの相乗効果とヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクの魅力的な人物像が私達を惹きつけて止まないのだろう。

①第9話
「男に会ってもいい、何もなかったように過ごしてもいい。その代わり孤独にはなるな。景色のいいところに行って消えようなんて思うな。僕がいるから」
(セリが「そばにいないくせに」と言ったことに対し)「そばにいなくても、君が寂しくないようにいつも思っている。」

この会話は南北の軍事境界線で、もう2度と会うことはないかもしれないという状況で交わされたものだ。

ジョンヒョクは、セリが孤独感から自殺しようとした過去があることを踏まえて、この言葉を言っている。もっと言えば、第3話セリが自分の生還を家族が喜ぶのか迷惑がるのかわからないと言っていた船渡しでの会話や第5話セリが電車の諺になぞらえて話した彼女の過去、第6話セリの話した冷たい家族関係などから、セリの心には深い悲しみや孤独感があることをジョンヒョクは感じ取っていたはずである。

ソウルで再会した時、ジョンヒョクは真っ先に、セリに家族とのことを聞いている。彼は何よりもセリの人生が気がかりだったのだろう。

「僕がいるから」「そばにいなくても、君が寂しくないようにいつも思っている。」

この言葉は、普通に聞いたらすごくキザに聞こえる言葉である。でもこれから元の冷たい現実に戻っていくセリにとっては、この言葉によってどれほど勇気づけられたことか。北朝鮮では、「愛している」の言葉を言わなかった彼だが、セリにかけたこの言葉には「愛している」があふれていた。そして、

日本語訳「いつまでも幸せでいてくれ。それが僕の願いだ。」

英語訳 “Be happy until the end of your life. I would be grateful if you’d   do that.“😭  私は英語訳の方が気に入っている。「人生の最後の日まで」の方が強く胸に突き刺さる。

完全版「生きている間ずっと、幸せでいてください。そうしてくれたらありがたいです。」(英語訳に近い。)

②第10話
「忘れてはならない人は憎い人ではなく好きな人だ」「好きな人だけを思って生きるんだ」
(「その人がそばにいなくても」とセリ) 「そばにいなくても」

「そばにいなくても」ーこの言葉を言った時のジョンヒョクの目の淵が赤く滲んでいたのが切ない。(完全版のト書きには「胸が痛む。やっとの思いで静めて」とある。このような身体的表現に落とし込んだのはヒョンビンである😍この方の感情移入にすごく感動❗️)これは、セリの次兄夫婦が訪ねてきて北朝鮮にいた事をバラされたくなかったら、野心を持たずにおとなしく暮らせと脅しに来た時に、セリが人生で忘れてはいけない人が3人いると、反対に仕返しをしたことに対する言葉だ。

ここでもジョンヒョクはセリの置かれている哀しい状況を垣間見てしまう。第6話でセリが「今ごろ兄たちは喜んでいるはず。“セリは死んだと”」と言ったことにジョンヒョクは異を唱えて、セリを諭したが、セリが言ったことが正しかったことが分かる(でもあの時のセリは、ジョンヒョクに反論しなかったし、ここでジョンヒョクに家族のことをきかれた時も、あなたが言っていたことが正しかったと答えた矢先だった) 

「恥ずかしいから何も言わないで」と言ったセリに、ジョンヒョクは済まなさを感じていたはずだ。セリを諭したあの時の自分の言葉が、彼女に嘘をつかせるほど彼女の心に負担を負わせてしまっていたと。そんなセリをそばで支えられないもどかしさに胸が痛んだことだろう。「何も言わない」と言って優しく抱きしめる。それは、時として言葉より大きな力となり、セリの心を癒したはずだ。

③第12話 
(2人でお酒を飲みながら)「見てみたい。君に白髪が生えて、しわもできて、老いていく姿を。きれいだろうなあ」

絶対叶わぬ思いだけに、見ている方が切なくて悲しくなります。で、この「きれいだろうなあ」の言葉の伝え方、ジョンヒョクって本当に心憎い人だと思う。

会話の始めで、「酔っているなら言いたいんだ」とジョンヒョクが言うと、セリが「何が言いたいの?“きれい”って」と聞く。ジョンヒョクはすかさず「違う」と答えて、セリを軽く裏切ります。そして、セリとの結婚や子供のことやピアノのことを話した後に上記の話になり、その「きれいだろうなあ」を言います。初めは否定したのに。でも、こっちの「きれいだろうなあ」の方がずっとうれしいだろな、セリは。

この会話をしていた時のジョンヒョクは、北朝鮮にいた時の彼と同一人物なのかと思ってしまう。「ここに残って、君と結婚したい」なんて、素直に言えてしまうなんて。それを涙をこらえて聞いているセリの表情が痛々しかった。叶わぬジョンヒョクの話に「酔いがさめそう」などと言っては、自分の感情を抑えていたのでしょう。

④第12話
「来年もその次の年もその翌年も幸せな日になる。僕が思っているから。」「生まれてきてくれてありがとう。」「愛する人がこの世にいてくれてうれしい」と。「だからずっと幸せな誕生日になるはず。」

完全版第12話でセリは言う。「誕生日はもともといい日ではなかったのに、これからはいい日になってしまう。これから誕生日が来るたびにうれしかった日として思い出すようになってしまう」(セリが自殺しようとした日は、まさに自分の誕生日だった) 上記のジョンヒョクの言葉は、このセリの言葉を受けて言ったものである。

セリには、母親に海に置き去りにされた過去があり(婚外子のセリを育てる母の苦悩から)、トラウマとなって心に残っている。誕生日に訪ねてきた母親に以下のように言う。

「その時から思うようになった。私が生まれたせいでお母さんが苦しんでいる。私なんか生まれなければよかった。生きているのが申し訳ない。」


セリはずっと自分の生を肯定できずに生きてきたのだ。だから後ろからとってもやさしく抱きしめられて聞いたジョンヒョクのこの言葉は、「セリが聞きたいと心から願っていた」(完全版)ものだった。彼は暗い孤独の闇からセリを救い出し、心に安寧をもたらし、傷を癒してくれた。

この時のジョンヒョクは、第8、12話の少年のような彼と違って、優しくセリを包み込む大人の男でした。

⑤第14話
「よく食べよく眠り元気に過ごす。そしてまた明日も会えるような気持ちで。そう過ごすうちに人生が楽しくなりすぎて僕を忘れてもいい。それでも僕は構わないから。」
😭

これは直接セリに言った言葉ではなく、ジョンヒョクの独白である。「忘れられてもいい」、でも僕はずっと君の幸せを祈っている。これぞ、ー究極の愛の形だ。このシーンを見ると、2人の行く末を思って無性に悲しくなる。

第16話
「万が一何か起きたとしても君のせいじゃない。後悔もないし、君と出会えたことに感謝している」

私は英語訳の方が素敵だと思う。

“But even if something happens, it’s not your fault. I have no regrets. You came into my life like a gift. I’m just grateful for that”

君は「贈り物」のように僕の世界にやって来た。その事に僕は感謝している。心を閉ざして生きていたジョンヒョクの人生に、明るさを取り戻してくれたセリは正に思いがけない贈り物だったのだろう。お互いの出会いに感謝する別れのシーンは、背景の空の色と共に本当に美しい、そして悲しい。

これはいわゆるラブコメと言われるジャンルのドラマなのだろうが、人生や家族、母娘の確執と和解、国境を超えた友愛、はたまた三角関係まで、いろいろな要素が盛り込まれている。世界的に話題になったのは、これらの要素が万国共通だからだろう。個々人の見方によって、色々な解釈が成り立つ、そんな素材が盛り沢山かくされている。

私には、北朝鮮へのメッセージが込められたドラマでもあるように思えた。セリが言った「美しい世の中になるといい。そうすれば連絡ぐらいは取り合えるのに」にはそんな切なる希望が込められているのではないか⁉️)

リ・ジョンヒョクという人は、あまりしゃべらない人物として設定されているが、彼の言葉の言外からは、セリへの優しさや慈しむ思いがあふれ出ている。それを私たちは目撃する。これらのジョンヒョクの言葉は、ヒョンビン演じるジョンヒョクの映像と一緒に聞いてこそ更に胸に迫る。









この記事が参加している募集

#おすすめ名作ドラマ

2,443件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?