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今日ときめいた言葉99ーホモ・パティエンス

(タイトル写真はチェコにあるテレジン収容所跡地)

この言葉、2023年12月16日付朝日新聞の土曜版「be」に掲載された「悩みのるつぼ」と言う人生相談欄で、回答者の姜尚中氏が使った言葉である。人間を「悩む人」、ホモ・パティエンスと捉えた精神医学者の言葉を引用して相談者に回答している。

この精神医学者は、「創造によって生まれる価値や体験を通じて生まれる価値ではなく、人間が『運命』と向き合うことによって実現される『態度価値』に『悩む人』の本質を読み取ることができる」という。

姜氏は、この精神医学者だったらきっとこう言いますよとこの欄を締め括っている。

「もういいんですよ、これ以上、悩まなくて。人の心は悩みの海でも、蒼い夜空は星の海なんです。星たちが遠くからあなたを見守っているんですよ。なんと素敵じゃありませんか。さあ、休みましょう、のんびりと」

あなたはそれ以上悩まなくていいのです、と。

不学な私は、早速この著名な精神医学者を調べた。その人はヴィクトル・フランクル。あの「夜と霧」の作者で、アウシュビッツの絶滅収容所からの生還者である。

人間をホモ・サピエンス(homo sapiens)ラテン語の「賢い人」と呼ぶのに対し、フランクルはホモ・パティエンス(homo patiens)「苦悩する人」と定義し、苦悩することは人間の本質であると唱えた。師事したフロイドとアドラー、それにユングを加えた四大精神分析医だそうである。なお、このpatiens には「苦悩に耐える」という意味もあるという。

フランクルは、人生には意味があると言う。前述の価値の話でいうと、人間には「創造する喜び」と「美や真理、愛などを体験する喜び」がある。しかし、どんな状況に置かれても、その運命にどのような態度をとるのか、その決断は本人にかかっている。これが前述の『態度価値』なのでしょう。

どんな決断をするのか。そこには常に自由があり、その決断の自由は人間から決して奪うことはできない。この考え方は、強制収容所での体験を通して強固なものになったのではないでしょうか。

幸福を感じ取る力を持てるかどうかは、運命への向き合い方で決まるのだ、と。


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