長浜ユロ

詩や小説。たまにひとりで映画らしきものを撮ったりも。12匹の猫と共棲。 https:…

長浜ユロ

詩や小説。たまにひとりで映画らしきものを撮ったりも。12匹の猫と共棲。 https://lit.link/nagahamahulot

マガジン

  • 詩たち

    僕の詩たちです。

  • 孤独な人の生き方

    孤独な人が社会に適応しながらも気楽に生きる方法。

  • 日記小説

    日記を小説風に綴っています。

  • 眠れぬ夜のために

    不眠からの脱却・快眠へと誘います。

最近の記事

さようなら、たい焼き屋さん 【詩】

夏の空は煌びやか それでいて、この世の終焉のような 絶望的な気配も纏っていました カスタードのたい焼きを買って帰ろう そう思い立って もしかして今日が最後になるかもしれない カスタードのたい焼きを あの商店街の一角で 半世紀以上も続いているたい焼き屋さんへ 暗い顔をしながらも軽やかな足取りで 途中で見たことのある中学校の同級生でどーでもいい関係だった人 お互い今もどーでもいいといった風にすれ違い、 けれどそのために中学校のこれもまたどーでもいい記憶が 蘇るハメになってしまい

    • 夏、 【詩】

      用水路の隅で壁に向かってそよぐ 1匹の魚 情熱を失った子供たちの手をきつく握り 畦道を疾駆する 記憶を捨て去ろうとして男は この田舎でこの子供たちと巡り合った この長閑な地を最期に決めていた数日前は あってもなかったかのように 与えられた一室で男は塩漬けのきゅうりを勢いよく齧り付いていた

      • 記憶の追悼式 【詩】

        もやがかかる 記憶は葬られ 供養も無事に終了した 追悼式にはもちろん僕だけが参加し 嫌な顔たちもすっかり消えて 真新しくなった世界 さようなら次に産まれた記憶が 美しいものでありますように 現実は逃げ去り 海を渡っていく後ろ姿 僕は無理に笑みを浮かべ 矛盾だらけの幻想に自分を閉じ込めてしまっていた

        • 無彩色の期待 【詩】

          期待がすでに砂礫に埋まり 海岸線に沿って白い花が揺れているのが 視界に入っても 僕は何とも感じなくなった ドラム式洗濯機が下の洗面所で振動している ただそれだけのことだった

        さようなら、たい焼き屋さん 【詩】

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        記事

          ある日の紙片 【詩】

          シャツの胸ポケットから出てきた 小さな紙のかたまり 広げるとそこには何も書かれておらず ただ小さな皺をいくつも重ね 泣き顔で眠っていた 僕ははっと思い出す ある日湖のほとりで トンビが僕たちの弁当を狙っていた 君は警戒することなく 僕は神経をいくつも立たせ集中できずに食べていた その弁当に付いていた割り箸の袋を広げたもの なぜ広げたのかはわからないけれど その時の匂いや郷愁が鼻の奥へ這い上がっていく やがてすぐにただの紙切れへ戻り それをどうすることもできず、そっと元いた胸

          ある日の紙片 【詩】

          さざえと南十字星 【詩】

          海に光が差し サザエたちが一斉に岩影から這い出てくる ネコザメやヒトがこぞってサザエに近づき 捕食しようとしたところ 泡が立ち、ただならぬ異臭が海中を襲う ネコザメやヒトは退散し サザエたちは日の光を浴びていたところ 一匹のサザエは死期を悟り自ら甲羅を脱いで 砂浜に打ち上がり ときおり波を被りながら 南十字星がくっきり浮かんだ空の下、静かに息を引き取った

          さざえと南十字星 【詩】

          AM3:00 【詩】

          気候の変化にただあらがいもせず 薄気味悪い夜半に 机に向かい カタカタ鍵盤を打つ ようやく星の呼吸は穏やかになり 誰もいない高原で 愛する誰かと走り回っている ありふれた理想の風景にたどり着いた

          AM3:00 【詩】

          初夏に限りなく近い春の夜半に【詩】

          記憶の鍋をぐるぐる引っ掻き回し アクをとる 顔色の悪い老人の横を通りすぎる 果たして自分なのか別人なのか LINEの通知が鳴る おそらく誰からでもない何かだろう 昼のあたたかい陽気が嘘のように 半袖にマウンテンパーカーを羽織っただけの体は薄寒さに震えながら 要するに晩春の憂愁に閉ざされている

          初夏に限りなく近い春の夜半に【詩】

          島へ向かう 【詩】

          魚たちが同じ間隔で海面を跳ねる 船が波に押され大きく揺れる 展望デッキでジタバタする僕に 反射的に投げかけられた視線 その顔を見ることもできず、さっきまで座っていたベンチへ戻る 船のエンジンが白波を立て 風を切り、空気をかわしていく もうすぐ島へ着くという船内アナウンスに 立ち上がるそこにいる誰か 僕はまだベンチに座り微動だにしない向こうの島を じっと眺めていた

          島へ向かう 【詩】

          ジレンマ抱えて飛び出した 【詩】

          ジレンマ抱えて飛び出した 雨と薄暗い春の気配 時間が虚しげに前を歩いている 汚れた白のニューバランスのスニーカー 安心のためにいつまでも同じものを履き続けていた 君に会う時は汚れを念入りに取り去っていたけれど もうその必要はすっかりなくなって 汚れすさんだ足元にも目がいかなくなった 道路工事の無機質な鉄を叩く音が頭蓋骨にジリジリ響く 白いヘルメットにオレンジの蛍光ジャンパーを着た 交通整理のおじさんが僕を特別ルートに案内する 会釈して、声にならないほどの声で「すみません」

          ジレンマ抱えて飛び出した 【詩】

          アダンの木のそばで【詩】

          空港の売店で 迷いに迷って選んだ紅鮭おにぎりと 黄色いペットボトルのさんぴん茶を リュックの隙間へ押し込んだ 沖縄らしいからっとした空が妙に虚しく 海の波打ち際から数十歩離れた アダンの木のそばに腰を落とす アダンの鋭利な葉と葉のすきまから 生温い風が通り抜けていく 紫色の海底から何者かが這い出てこようとするのを 僕はうとうとしながら眺めていた 波はかすかに打ち続け 海中からはバカンスの甘い蜜を味わっている者たちの弾んだ声 どこか遠くの木に留まるアカショウビンも負けじ

          アダンの木のそばで【詩】

          まどろみ 【詩】

          池にかかる小さな橋 まどろんでいた鯉たちが半分寝ながら群がってきた 鯉たちはこちらが餌をあげる気がないのを悟ると またまどろみの中へ消えていく 誰もいなくなった池の橋にしゃがみ込み きたないとは思ってもお尻を地面に落とした 橋の欄干に背中を預け、石のように凝り固まった体は次第に柔らかさを取り戻していく いつも浅く短い呼吸は池の向こう岸へ届くほど長く深く 僕はいつもの間にか眠っていた 眠りから覚めると景色はさっきと変わらない ショルダーバッグの中からタンブラーを取り出し ま

          まどろみ 【詩】

          外へ 【掌編小説】

          時間だけが経過していくのを肌の表面は感じていても、体の中では感じることができずにいた。 「じゃあ少なくとも家の中にはいてね。」 友里はそう言って仕事へ出かけた。部屋で安静にしているようカウンセラーの先生に言われた通り、家の中での生活を余儀なくされていたが、落ち着かず何度も家を飛び出そうとしては友里に止められていた。 友里が出て少しの間が空いてから、私は彼女の言葉をあっさり裏切り、外へ出た。 薄紫のプリムラがアパートの前の花壇に小さく佇んでいるのをチラと見た。 ひとりなんとな

          外へ 【掌編小説】

          カモメと僕と海 【詩】

          かもめの声が海のある街に来たことを知らせる 愛想のない駅員さんに あえてにっこりと微笑みかけ 僕は港へ向かう 港には沈鬱な空気が漂い、 鮮やかな海をしらけさせている 途端に雨が降ってきて僕は漁業組合の前の屋根の下で一時をしのいだ 向こうからやってきた猫は僕を一瞥して方向転換して視界から消えていった 人間もおんなじように僕をいないものとするので 僕はこの港との相性を考えて 日はすっかり照ってきていたが、港から立ち去ることにした 駅へ向かう途中、船着場を見つけた 僕はどこ

          カモメと僕と海 【詩】

          砂浜遊戯 【詩】

          砂浜で自由な時間を過ごしていた 大きな手足のカニやサザエが陸へ上がってきて 僕の周りをカサコソしている ある時サザエのひとりが甲羅を脱し みんなの前から姿を消した 他のサザエのひとりは都会へ出稼ぎに行ったと言うし カニの地位あるヤツが言うには サザエは自ら干からびて死んだという まあるく平穏な時間が流れていた 夜の波間が静かに泡立っていた 砂浜の記憶が波に打ち消され まあるく平穏な時間が過ぎ去ることがただ恐ろしかった

          砂浜遊戯 【詩】

          海辺の僧侶 【詩】

          堤防の下で ひとり法を説くお坊さん 僕たちは不気味に思って 遠回りして砂浜へ出た まだお坊さんの声が聞こえてくるビーチには 古風なブレスレット 赤珊瑚じゃない?彼女は嬉しいそうに眺めていた それからひんやりとしてきた時間になると お坊さんの説法は波の華とともに解けて 聞こえてこなくなった 僕たちは消え入りそうに 冬間近の海辺の深遠な空気に包まれながら お互いを求め合った 離れていた頃の時間はやっぱり戻ってこなかった 陰うつな波が僕たちの間を侵食していく 「終わりでいい?」

          海辺の僧侶 【詩】