個人的にこの百合漫画が好き!2023

 去年に引き続き、自身の1年間を総括する気持ちも込めて、恐縮ながら10作品選ばせていただきました。どうぞお付き合いください。ボーナスやお年玉の使い道の参考になれば幸いです。

 書いた人のプロフィール:百合ファン歴15年。聖書は『青い花』と『乙女ケーキ』、『終電にはかえします』。ここ数年の作品では『わたなれ』『私の中でいちばんに光る、貴方』『上伊那ぼたん』が好き。本性はきらら系ファン。ふと連載中作品限定百合漫画本棚を見上げて、そのレーベルの豊かさに驚きました。マーガレットまでありましたよ。

・2022/12/06〜2023/12/05に1巻または単巻が発売された漫画作品が対象。アンソロジーを除く。
・以下、ストーリーの仔細に触れるほどのネタバレはなし。
・以下、順不同。
・タイトルはwebコミック(ない場合は出版社の作品ページ)へのリンクになっています。



私の中でいちばんに光る、貴方/やとさきはる

 タイトルのテーマに沿った作品を11作収録した掌編・短編集。1冊で11作。お得ですね。
 ふとした瞬間に相手を意識させられてしまって、思うのがやめられなくて、それが辛かったり、あるいは幸せだったりして……いずれの作品もすごくキラキラしています。どなたかが宝石箱とたとえられていましたが、まさにそうだと思います。ベタ甘から悲恋、ダーク系まで、開けてうっとり。
 ちなみに特に好きな作品は『二人のアルカディア』の続編「fuzzy arcadia」と、めっちゃきらきらしてるけど切ない「私のエトワール」と、あと「#ミカちゃんともなちゃん」です。なんでって、おまえ……えっちなの好きだろうが。
 ていうか全部好きですけど。
 それにしても同人作だけの短編集は珍しい気がします。個人誌は在庫終了とともに実質入手不可になったり、少なくとも紙で読むのは難しくなったり(電子で出してくださる方々に本当に感謝)するので、こうして企画していただけるのはありがたいです。

 

私の女神が今日も推せる/川内

 ハイパーケトルイエスタデイという同人サークルがありまして、わたくし昔から好きで全作集めていると言うほどではないのですが(作品が多くて何を持ってて何を持ってないか把握できてない説)、少なくとも一般参加したイベントで見かけたら必ず新作を手に入れる、くらいの距離感で派ありました。
 本短編集はそのサークルの一人・川内先生の商業作品です。
 「荒木さんは1番になりたい」や「西大路さんは可憐」のようにひたすらにかっこいい女が出てくる作品があるかと思えば、「岩波さんは親友」のようにプライドを捨てて相手を求めてみたりと、シチュ豊かな9作品が収録されています。
 強い女が出てくる作品が多いので、そういうのが好きな方に特におすすめです。


冷たくて柔らか/ウオズミアミ

 思春期のころに同性を好きになると、一過性だの何だのと言われ、当人にしても“普通”でいたいと思って、結果的に気持ちに蓋をするということがあります。百合というジャンルは、そんなふうに言われる謂れはないし、自分自身を否定することもないんだよと教えてくれますが、現実には、そういうクィアな問題とぶつかるのは大変で。目を背けて時が解決するのを待った人もいるのではないでしょうか。
 この漫画の主人公もそのような人物の一人です。思春期に同性を好きになったが受け入れられなくて、その後にいくつか異性との恋愛を重ね、感触は悪くなかったもののどうも熱くなりきれず、結婚まで考えていた男に振られたところで初恋の相手、ただし既婚者!に再会する……といった話です。
 20年ぶりに動き出す初恋、既婚者はだめだと分かっていてもとまらぬ感情……続きが楽しみです。


この恋を星には願わない/紫のあ

 つらい。初読時から「つら……」という言葉しか出てきませんでしたが、この原稿のために再度読んでもやはりつらく感じます。
 冬葵と瑛莉、冬葵の兄である京は幼馴染。特に冬葵と瑛莉はお互いに何にも優先される一番の親友と認識して疑わないほどの仲。しかしそれゆえに二人の間にはすれ違いが生まれてしまいます。たとえば瑛莉が京と交際を始めた際にはそれを冬葵に隠そうとして冬葵にショックを与えてしまうし、冬葵は冬葵で瑛莉に恋心を抱いているのですが、親友という役割に固執して自分自身を抑圧してしまっているようです。実に苦しい。共感のあまり涙が止まらない。はよ救われてほしい。どんな結末を迎えてもいいので、お願いだから幸せになってください……という気持ちでいっぱいになりました。


夢でフラれてはじまる百合/ヒジキ

 みなさんって両片思いが大好きですよね(強い断定)。片思いのドキドキ感、もどかしさを通常の2倍味わえつつも、両片思い特有のすれ違い、最終的には収まるところに収まるだろう安心感まで得られる。最高のシチュエーションの1つだと思います。
 本作もそんな王道オブ王道の両片思いの一作です。1ページ目から親友にフラれて心停止するかと思いましたが幸いタイトル通り夢オチで、これをきっかけに親友を意識してしまい、あら大変。という話です。
 こういうシチュエーションの時、経験豊富なみなさんならこう考えるはずです。「親友のほうが昔から好きだったりしないかな」「クソデカ感情をお持ちではないかな」と。さすがのご慧眼です。1巻ではほとんど主人公視点のため断言こそされていませんが、もはや火を見るよりも明らかな感じでそのように描写されています。
 王道のど真ん中を行く作品でした。


陰キャギャルでもイキがりたい!/かしわぎつきこ

 オタクだからギャルってみんな陽キャだと思ってました。違うみたいです。この作品に出てくる九蘭は根暗、市子はコミュ症(原文ママ)とバリバリの陰キャ。しかしカワイイとサブカルが大好き。今日も放課後に10代向け映画をくさしたり(でも映画を作るということ自体への敬意は忘れなかったり)、陽キャギャルに巻き込まれる形でTiktokやってみたり、という感じで、モラトリアム最高!という感じです。
 百合的には、一見クールな九蘭の方が市子にデカ感情を持ってそうなのがたまりませんね。誕生日でもないのに似合いそうという理由だけでスニーカー買ってくるとか、市子を撮るのがやけにうまい(撮るのが上手っていうのは、つまり……いうまでもありませんね?)とか。ド王道、たまりませんね。


平良深姉妹はどっちもヤんでる/金子ある

 メンヘラ姉とヤンデレ妹の姉妹百合。「病み」というテーマですが暗さはなく、全体的にテンション高めのページが多くて、読んでて楽しいコミカルな作品です。
 ただ本作の魅力はそれだけではありません。二人とも実に健気で、姉はメイドカフェの人気最下位でありながらも、スーパーアイドルたる妹にコンプレックスを抱かず地道に(あるいはメンヘラを撒き散らしつつも)営業を続けていますし、妹は妹でとにかく一途。姉の裏垢を完全に把握してるのはともかく、なにかあったらすぐ駆けつけてきます。
 ちょっと共依存気味?な気もしますが、何度も読みたくなる作品でした。


マグロちゃんは食べられたい!/はも

 人間になってしまったマグロやカジキと人間の異種百合。異種百合です。
 人間界には人間のルールがあるように、マグロ界にもマグロの掟があります。すなわちそれは、「一本釣りで釣り上げられたならその人の血肉になりなさい」というもの。人間的に言い換えるなら「運命の相手だから(食べられることで)添い遂げなさい」となります。釣り上げられた“マグロちゃん”は人間の姿を得たといえども思考はマグロのままなので、この掟に沿って自身を食べよ、それが最上の幸福であると迫ります。対して釣り上げてしまった“みさき”にとってはそもそも人間を食べるなんて無理な話だし、長くいるうちに情が移ってしまっては、いよいよ食べ難い。だいいち、運命の相手なら食べずに一緒にいたいというもので、そこが非常に切ないわけです。
 残念ながら2巻で完結してしまいましたが、手に取りやすくなったという側面もあります。今年の4コマ百合で一番良かったと思います。


おねロリキャバクラ/春日沙生

 タイトル通りの作品で、私の説明はいりません。……少しだけ付け加えると、もにゃ学生のほうがキャバ嬢で、お客はだいたい周辺のOLだということです。さらに言うと、営業時間はお昼の一時間のみとなっています。安全安心ですね。なにがだ。ヤング・テレホン・コーナー(※)が泣いとるわ。
 仕事に疲れ切ったOLたちがうにゃ学生にほだされてごろごろごろ~~~と沼に沈んでいく感じの内容です。常に少女のほうに主導権があるので、そういったおねロリ―人によってはロリおねだと言った方が分かりやすいかもしれません―が好きな方には特におすすめです。
(※ 青少年向けの相談ダイヤルを紹介する広告のこと。なぜかまんがタイムきらら系に掲載されている。メイン読者層は20~30代だと思うんですが……。きらら本誌においてはおねロリキャバクラの後ろがほぼ定位置になっていた)


小春と湊 わたしのパートナーは女の子/ひあるろん&達磨

 今年もエッセイ枠を置いてみました。というかエッセイから選べるだけでも奇跡に近いんです、本当は。ありがとう百合姫。
 本作は空想でないか幾度となく疑われるくらい(※)ラブラブしております。全編ノロケです。遠距離恋愛とか年の差とかいろいろ壁も出てくるのですが、愛の力で解決します。あと性的な話も許される範囲で遠慮なく踏み込んできます。こんなことをされては創作サイドの立つ瀬がない(?)と思います。
 ちなみにFANBOXもされており、そちらではかなり性的な内容も読むことができます。こういうのって当事者間では飽きるほど語られてきたのでしょうが、インターネットで数百円で読めるってなるとなんか不思議な気持ちになります。でも、当事者のコミュニティに参加できない人もたくさんいらっしゃることを思えば、そういう面でも貴重な価値を持った作品になるでしょう。
(※原稿を書くために紙の本を買ったのですが帯に「※これはノンフィクションです!!」って書いてありました。作者もよくSNSで「現実です」とおっしゃられています。)


 以上、2023年の個人的百合漫画ベスト10でした。
 この原稿を書くために過去一年の作品を振り返ってみると「これどんな話だっけ?」と思うことが増えており、年齢を感じます。もちろん読めば「そうそうこれ好きだった」と思い出せるのですが。いやはや。文章自体も昨年より短くなってしまっている気がします。ちょっと頭の調子が悪いもので。すみません。
 そういった状況にあって百合漫画は確実に救いでした。
 来年もたくさんの百合漫画に出会えたらなと思います。
 それでは皆様、よいお年をお迎えください。


-おまけ-
上記以外のよかった百合漫画(五十音順)

・IDOL×IDOL STORY!/得能正太郎
・一勝千金/原作:サンドロビッチ・ヤバ子 作画:MAAM
・異世界サムライ/齋藤勁吾
・偽りのマリィゴールド/サスケ
・映しちゃダメな顔/FLOWERCHILD
・ウマ娘 プリティーダービー うまむすめし/浅草九十九
・感覚共有メイドさん!/森
・気になってる人が男じゃなかった/新井すみこ
・キャンディ ふたりの約束/時一二
・限界OLさんは悪役令嬢さまに仕えたい/ネコ太郎
・恋より青く/深海紺
・さみしさの音がする/シギサワカヤ
・志乃と恋/千種みのり
・シルフの花姫/かめじろ
・散り損ないのヒラエス/にたもと
・遠山えま百合集 センセイとの時間。/遠山えま
・ないしょのおふたりさま。/沼ちよ子
・にゃこと博士/空次郎
・ハコイリクリエイト/行町咄
・花唄メモワール/一ノ瀬けい
・パパのセクシードール/梶川岳
・破滅の恋人/郷本
・ペンションライフ・ヴァンパイア/田口囁一
・見えてますよ!愛沢さん/棘尾どろしー
・妄想アカデミズム/檜山ユキ
・夢見るメイドのティータイム/みやしろ
・リライアンス/水谷フーカ

『限界OLさんは悪役令嬢さまに仕えたい』『恋より青く』『さみしさの音がする』は改めて読むとベスト10に入れてもよかったかもと思いました。なおこの場合、ベスト10が13作品になります。意地でも減らさない。『志乃と恋』は作者いわく「こういう二人の百合を読みたかったけどなかったので描いた」とのことです。あっぱれ。『気になってる人が男じゃなかった』は掌編連作でクオリティも高く初心者(?)向けですね。あと、『ペンションライフ・ヴァンパイア』とか今のご時世に刺さるよなあ…と思いました。



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