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第35章 ダンゴムシは「虫」である

久しぶりの更新でいったい何の話かと思うかもしれませんが、ちょっと書かずにはいられないので書きました。
きっかけはこの記事です。

この記事自体は、知識が不十分な頭の固い小学校教員と勉強熱心(?)な小学生の相性が悪い的なよくある話なのですが、この記事タイトルに私は強い違和感を覚えてしまいました。
先生「ダンゴムシは虫だ」小3娘「エビやカニの仲間で甲殻類です」 優秀ゆえに教師から怒られる理不尽

「ん…?何を言うとるんや君は。」

ダンゴムシが虫ではないなどという珍説は初耳なので、驚きを禁じえません。
と言うのも、そもそも論として「虫」という言葉は一般の用語であって専門用語ではないので、分類学上の定義があるわけではありません。要するに、科学的に「虫」という分類はありません。
つまり何が虫か、虫でないか、などという議論自体がすでに理科の話から逸脱しているのですが、ここは一般論というか、一般的に受け入れられているであろう分類の話で「虫」について語りたいと思います。

1. 古典的な「虫」

まず、「虫」という漢字はヘビをかたどった象形文字から来ていて、古来、ヘビやカエルなどの小動物を「虫」と呼んでいました。
そして、古典的にはもう少し広く、「人類・獣類・鳥類・魚類以外の小動物の総称」となっている言葉です。

(へび)、(まむし)、蜥蜴(とかげ)、(かえる)、(かに)、(えび)、蝸牛(かたつむり)、(ひる)、蛞蝓(なめくじ)、蚯蚓(みみず)

よく見てください。これらの生き物は全部虫偏(むしへん)がついてるじゃないですか。
昔の人からしたらこれらは全部ひっくるめて「虫」だったわけです。
生物の分類学とかを無視して日本語の話をすれば、一応全部「虫」ってことになっています。


アオダイショウ(いらすとや)

ただ、現代の日本人の感覚としてヘビやトカゲが「虫」と言われてもちょっと納得しづらいですよね。
というわけで、分類学上のグループと、現代人の感覚で「虫」として認識できるであろう生物群を対応させて考えてみましょう。

2. 無脊椎動物は「虫」?

多くの人がご存じの通り、ヘビやトカゲは「爬虫類」(分類学上は「爬虫綱」)と言われるグループに属します。見ての通り「虫」という漢字が入っているんですが、一般的には「虫」ではなかろうという話をしました。
ではなぜ、爬虫類がその名前に反して虫っぽくないのかというと、これらは「動物園にいる動物」というイメージがあるからでしょう。
「動物園にいる動物」というのはこれまたあいまいな括りなんですが、ざっくり言えば「脊椎(せきつい)動物」に分類される動物群です。
脊椎動物の主要な分類は「哺乳類」「鳥類」「爬虫類」「両生類」「魚類」ですよね。(「無顎類」ってのもいるんですが割愛します)
これらのグループに属する動物は概ね「虫ではない」という感覚が共有できると思います。というわけで、逆に脊椎動物ではない「無脊椎動物」は全部「虫」だとしてしまう考え方もあるかと思います。
ヘビやトカゲが虫という意見は受け入れられなくとも、無脊椎動物のヒルやナメクジ、ミミズなどが虫の一種であるという意見に賛同する人は多くいそうです。
ただし、この分類にも少し問題があります。
無脊椎動物には「軟体動物」が含まれますが、これには貝類やイカ、タコが含まれます。

泳いでいるタコ(いらすとや)


貝類の中でもナメクジやカタツムリはギリギリ「虫」っぽいかもしれませんが、他の貝類やイカ、タコはあんまり「虫」っぽくはないですね。
そういえば「蛸(たこ)」という漢字も虫偏ですね。なんで「烏賊(いか)」は虫偏じゃないんでしょうか…。
軟体動物ではないですが、クラゲの仲間(刺胞動物)にも「虫」っぽいのとそうでないものがいます。
クラゲの仲間の多くは刺胞動物門の中の鉢虫綱(はちむしこう)というグループに入るらしいです。どうやらクラゲも「虫」らしい。知らんけど。

というわけで、もう少し掘り下げてみましょう。

3. 原生動物は基本的に「虫」

軟体動物の話は一旦置いておいて、他のグループに目を向けて虫っぽいものを探してみましょう。
まず私が思いついたのは「寄生虫」です。
分類名にもろに「虫」って入ってますよね。
実は「寄生虫」と呼ばれる生物はいろんなグループのものがいて、生物分類だけでは語れないんですが、その中で「原虫」と呼ばれる連中は虫ってことで良さそうです。
マラリア原虫なんかがそれにあたります。
この原虫を含めて少し広げると「原生動物」という括りがあります。
これは、ミドリムシやゾウリムシ、アメーバなんかが含まれます。
虫ってことで異論がある人はいますかね?

ミドリムシ(いらすとや)

私はこの辺の生物は全部「虫」だと認識しているのですが、あんまり虫っぽくないと思う人もいるかもしれません。
納得がいかない人のために、もうちょっと虫っぽい生物の話をしましょう。

4. 節足動物という括り

クモやムカデは虫でしょうか?虫じゃないでしょうか?

ジョロウグモ(いらすとや)


どう考えても虫だろ!
という意見が聞こえてきそうです。

ですよね。どう考えても虫です。
もちろん、虫の代表格としては「昆虫」が有名だと思いますが、昆虫を抜きにしたらクモやムカデが虫の代表選手だと思います。
この、クモやムカデは昆虫と同じ「節足動物門」という分類に含まれています。
あの、いかにも虫っぽい独特の見た目が共通点になります。
「節足動物門」には4つのグループがありまして

  • 六脚亜門:昆虫など、足が6本、胴体が3つの節にわかれてるやつ

  • 鋏角亜門:クモ、サソリ、ダニなど

  • 多足亜門:ムカデ、ヤスデなど

この3つのグループのメンバーを見て、「虫じゃない」と思う人はかなり少ないでしょう。
むしろ虫の代表格みたいな連中です。
で、最後の1つのグループが

  • 甲殻亜門:エビ、カニなど(ダンゴムシはこの仲間)

ということになります。
エビやカニは「虫」でしょうか?
ここは意見が分かれそうです。
エビやカニは一般的に食べ物の分類の「魚介類」に含まれるので、これが虫というイメージを持っている人は少ないかもしれません。
むしろ、エビやカニが虫だと思っちゃうと、食べられなくなる人もいるかもしれませんね。
私は正直、「節足動物はすべて虫」と思っていますが、「エビやカニは虫じゃない」という意見を否定するつもりもありません。
そもそも虫に分類上の定義はないですから、好きに解釈すればいいんです。

ただ、私がこの記事を書きたくなった理由がここにあります。

エビやカニは「魚介類」だから虫じゃないとしましょう。
じゃあ、エビやカニの仲間であるダンゴムシやワラジムシやフナムシもまた、「虫じゃない」ですかね?

ダンゴムシ・ワラジムシ・フナムシ(いらすとや)

なんなら、これ食べられますか?

んなわけあるかー!

「虫」やん!
名前に「ムシ」ってついてるやん!
こんなに虫らしいたたずまいの虫ってそうそういないですよ。

ちなみに余談なんですが、すし屋でそこそこ人気のネタの「シャコ」ってあるじゃないですか?

シャコのお寿司(いらすとや)


完全体を見たことない人が多いと思いますが

シャコ(いらすとや)

完全体はこんなフナムシの進化形みたいな見た目ですよ。(虫やん)

5. 結論「ダンゴムシは『虫』である」

そもそも、「虫」に分類学上の定義はないです。
分類学上「軟体生物」に属する生物の一部、「原生動物」の大部分、「節足動物」の大部分、その他「無脊椎動物」の中のそれなりの割合が一般論で言うところの「虫」に該当するというお話でした。
だから、「ダンゴムシは『虫』である」という意見は正解でも不正解でもなくて、冒頭の記事にある「娘に間違いを指摘された先生が、腹を立て口論になった」という話は全くもって不適当というわけです。
私なら、仮に小学生が「ダンゴムシはエビやカニと同じ甲殻類だから虫じゃない」と言い出したら、「虫とは何か」についてその子の意見を聞きながら話を広げると思うのですが、記事に書かれたとおり、本当にその先生が怒ったのだとしたらちょっと能力が低いと言わざるを得ませんね。

ちなみに私はダンゴムシは見た目からして純度100%の「虫」だと思います。
Just my opinion!

以上です。

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