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映画『Hannah Arendt』

It's true I considered these questions in a philosophical way. The manifestation of the wind of thought is not knowledge, but the ability to tell right from wrong, beautiful from ugly. And I hope that thinking gives people the strength to prevent catastrophes in these rare moments when the chips are down. Thank you.
(Margarethe von Trotta "Hannah Arendt" 2012)

第二次世界大戦中、アウシュビッツ収容所へのユダヤ人移送を指揮していたアドルフ・アイヒマンというナチス親衛隊の一員がいた。彼は1960年に捕縛され、イスラエルで裁判を受ける。その裁判の傍聴のため、雑誌『ニューヨーカー』の特派員としてイスラエルへ向かったのが、ユダヤ人であるハンナ・アレントであった。

アレントは後に傍聴の結果をレポートにまとめ、書籍も出版している。そこでの主張は「アイヒマンは思考の欠如した、典型的な官僚である。そんな人間が、全体主義の悪の陳腐さを表現している」ということだった。全体主義は皆が皆、意志をもって罪に加担したのではなく、自己保身や集団行動に流されるまま、思考もせずに動いた結果が罪深き結果を生んでしまったと。大罪を犯した人間を思考が欠如していたと表現したことで、あたかも罪が軽んじられているかのように感じた人びとからアレントは批判される。

しかし、その「思考の欠如」こそが恐ろしい罪を生んでしまったのだと、思考の重要性をアレントは理解していた。

大学生を前にアレントが語る映画のラストシーンで、「思考することで悪の陳腐さから逃れることができると信じている」という台詞がある。自ら考え、意見を発することで、議論の場をつくり、なんとなく流されるような空気(空気は読むものではない)が生じる余地を防ぐ。

政治においても、仕事においても、例え友人関係であっても、「私はこう思う」ということを素直に伝えられる世界のあり方が、いかに重要なのかをひしひしと感じさせられる。

日本語版:http://www.cetera.co.jp/h_arendt/
ドイツ語版:http://www.hannaharendt-derfilm.de/
※ドイツ語版のサイトから、映画のラストシーンでのスピーチ(原文)が閲覧できます。