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映画『鬼太郎誕生日 ゲゲゲの謎』

廃墟となっているかつての哭倉村に足を踏み入れた鬼太郎と目玉おやじ。 目玉おやじは、70年前にこの村で起こった出来事を想い出していた。 あの男との出会い、そして二人が立ち向かった運命について… 昭和31年―日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。
血液銀行に勤める水木は当主・時貞の死の弔いを建前に野心と密命を背負い、また鬼太郎の父は妻を探すために、それぞれ村へと足を踏み入れた。
龍賀一族では、時貞の跡継ぎについて醜い争いが始まっていた。
そんな中、村の神社にて一族の一人が惨殺される。
それは恐ろしい怪奇の連鎖の本当の始まりだった。

鬼太郎の父たちの出会いと運命、圧倒的絶望の中で二人が見たものはー

https://www.kitaro-tanjo.com

https://youtu.be/HCETLuRsQAI?si=Q4FQq6Ooh5GZ5F0W

(以降、ネタバレを含みます)

鬼太郎の父(本作ではゲゲ郎と呼ばれる)は生き別れの妻を探して哭倉村へ。そして水木は立身出世のために財政界を牛耳る龍賀社長の後を追い、不老不死の薬「M」を求めて哭倉村へ。
ゲゲ郎は妻が人間を愛していたことから人間を憐れみ、水木は「人として」ゲゲ郎を見捨てられず、幽霊族であるゲゲ郎と人間族の水木は種族を超えて共同戦線を張ることに。

水木は太平洋戦争の経験から、使い捨てられる兵士から脱却することを原動力となり、「M」を手に入れることで自身の立身出世と同時に日本を強くしたいという思いを持っている。
しかし不老不死という無限の力を湧き起こす作用を持つ「M」は会社員を無尽蔵に働かせ、生み出される富は権力者に集まる仕組みとなっているように見える。言い換えれば、戦時中は兵士として、戦後は企業戦士として、ヒエラルヒーが再生産されているように見える。
一方の幽霊族はゲゲ郎の危機に呼応して身を守るちゃんちゃんこを編み出すように、同胞を助ける思いが形となる。
この対比は大変胸打たれる。

本編の最後では妻と子(鬼太郎)、水木を助けるために人柱となったゲゲ郎だが、エンドロールではなんとか妻と再会し最期のひとときを共に過ごしたことがわかる描写がある。
(ゲゲ郎が最後水木へ託したちゃんちゃんこがゲゲ郎の妻に渡ったから助かったのかしらと、描かれぬシーンに思いを馳せたり)
二人が暮らす家に水木は迷い込むものの、哭倉村を出てから記憶をなくした水木はゲゲ郎と妻には気づけない。にも関わらず、ゲゲ郎の妻が亡くなった後には埋葬し、墓穴から生まれた鬼太郎を葛藤の末抱き抱える描写は、同胞を助ける心が人間にも宿っていることを感じさせられた。

哭倉村の最後の亡霊は龍賀一族の子孫だが、消える間際の一言は「僕を忘れないで」。
忘れないよ。

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