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『低血ボルト』考察

正義、蹴っ飛ばした毛布、低血ボルト、この3曲に共通するもの、それはイラストレーター・革蝉さんがそれぞれのMVを担当したことです。
私は以前からMVには曲の真意に迫る考察のヒントが隠されていると思っていて、MVの担当イラストレーターさんにもなんらかの意味があると考えました。

正義と蹴っ飛ばした毛布は1stフルアルバム「潜潜話」に収録されており、この「潜潜話」はACAねさんが中学生の頃からずっと考えていたことがまとまったアルバムなんですよね。そのことについてはこちらのライブレポを読むと分かると思います。

そして正義と蹴っ飛ばした毛布と同じイラストレーターの革蝉さんがMVを描いた低血ボルト…同じ時期に経験した話みたいじゃないですか?
つまり革蝉さんが描くMVの曲はACAねさんの中学生時代を表しているんじゃないのかな、そう思ったわけです。
低血ボルトのMVにこんなシーンがあるんですよね。

少し見にくいですが、ハカセの後ろには「SEIGI」と「Kettobashita  Moufu」の文字が見えます

更に注目してほしいポイントがもう一つあります。それは正義と低血ボルトの繋がりです。歌詞にも「正義」という言葉が出てきますし、正義のMVに出てくるキャラクター(ニラちゃん、木っ手男、インクねこ)が登場します。

正義ニラちゃんがボルトニラちゃんに変身するシーンも

ACAねさんはこんなことも発言しています。

これは「今回の主人公は男の子ですか?」というファンの質問への答えなんですが、MVの主人公はニラちゃんではないみたいなんです。ということはニラちゃん以外の誰かが主人公ということです…私は最初、ニラちゃんが登場しないのかと思いましたが、そうではなく、ニラちゃんではない別の誰かが主人公だと考えるのが自然ですよね。

革蝉さんのイラストの左側に居る人物、これが今回の主人公なのではないでしょうか?私はニラちゃんの"本心"が可視化されたものだと考えました。

低血ボルトが収録された3rdミニアルバム「朗らかな皮膚とて不服」にもヒントが隠されていて、Apple Musicだけに寄せられたACAねさんのメッセージもあるんですが、ここでもやはり「正義」が使われています。

Apple Musicだけに寄せられたACAねさんのメッセージ

そして低血の同音異義語である締結という言葉も気になります。
低血ボルトの英語のタイトルは"FASTENING"、その意味は「締め付けるもの・固定するもの」なんですが、締結する道具のボルトを表しているような感じがします。
一体何を締め付けるのか…考察を進めていきたいと思います。

弱気になる最寄の雨
日々飛び散る血を滲ませてく
権利を武器に変えて争うほど
心を失うこと受け入れる覚悟なら

この間ケンカして涙したことを思い出したら弱気になってしまう。火花を散らすくらい言い合いして、悔しい思いを滲ませてる。子どもだとしても自分の意見を言う権利はあるし、理性を失うくらいに戦う覚悟はできたよ。

「最寄りの雨」ですが、直近に流した雨=涙、と解釈しました。「日々飛び散る血」ですが、血を流すほどのケンカは流石にしたことはないだろうと思ったので、バチバチ火花を散らすくらいの言い争いを表していると考えました。

自然に
誰かの為に引き換えに手放せば
いま自分が
生きてゆく意味になれてゆくの

自分の気持ちを素直に自然に伝えたい。お父さんの言っていることもわかるけど、それと引き換えに自分の思いを手放してしまえば、生きがいや生きていく意味も失ってしまう気がする。

この「誰か」と言うのはお父さんの事だと思いました。別の部分でも「誰か」という歌詞が出てきますよね。後ほど説明したいと思います。
何に関する言い争いをしているのでしょうか、気になりますよね。進路や、学生生活に関わる重大事項について意見が真っ二つに割れてケンカしている様に私には見えました。なぜかというと、Apple Musicに寄せられたACAねさんのメッセージに「見知らぬ方との契約もエビデンスも紙っぴら」というところがありますよね?エビデンスとは証拠や証言という意味ですが、学校でどれくらい頑張ったかという証拠、つまり成績表のことを指していると思いました。契約も指定校推薦みたいなもののように感じます。この見知らぬ人というのが学校の先生(授業を受けていたとしても素性は知らないし、家の人にとってはあまり見たこともない人だからです)だとしたら、推薦枠をもらったり、良い成績だから家族も喜んだのかもしれませんが、ACAねさんには音楽という夢があったので、そんな「契約もエビデンスも紙っぴら」で価値の無いものだったのかもしれません。だから、親子喧嘩をしてまでも自分の思いを貫こうとしたときの話をこの曲で表現したのかな、と思いました。
正義の考察も参考にしていただきたいんですが、ACAねさんは家族に対して色々と気を遣ったり、心配させたり、良い子でいようとしていたんじゃないでしょうか。だからなるべく親やお姉さんの期待には応えれるように努力していたと思うんですよね。でも、やっぱり自分のやりたいことや夢も追いかけたい!という強い意志も持っていたんじゃないかな、と思ったんです。

怖がることはもういーかい
惑わされてくなら
頭でっ価値 ずっとうんと砕いてもっと
乱してあげて

自分の気持ちを抑え込んで、相手の言う通りにしなきゃならないって怖がることはもういいかな?惑わされるのはいやだから。自分だけの価値観で凝り固まった頭でっかちな考えを砕いて、いろんな考え方があるって(良い意味で)乱してあげたいんだ。

どう思われるのか怖い、怒られるのが怖い、いろんな怖さがあるのかもしれません。

脳みそ達止められない 操れない僕に
期待したいんだ
切り刻まれ この皮膚に従うほど
無敵になれた

理性的に私の考えを止められないんだけど、でも、自分がしたいことにだって期待したいんだ。今まで傷付けたり傷付いたりしたけど、この感情に任せることで思い切り思いをぶつけることができたよ。

時が経てば 自然に
忘れゆく悲しみをいつまでも
思い返して
背負うことで戦えるの

時間が経てば自然に、大切な人を失った悲しみをいつまでも思い返して、その思いを背負うことで前を向いて戦っていけるんだろうか。

ここでの戦うとは、家族とケンカするということだけではなく、自分自身の葛藤も表現している気がします。

例え否定しかしない誰かを
正義まで押し付ける客観を
見逃しは出来ないけど
響かないから

お父さんが私の言うことを否定しても、お姉ちゃんがお父さんの肩を持ってお父さんの意見を押し付けようとしても、確かにそれも一理あるかもしれないけど、私の心には響かないよ。

ここでも「誰か」という言葉が出てきました。ACAねさんの思いを否定する誰か…お父さんなんじゃないかなと思いました。「そんな雲を掴むようなこと考えてないで、足元見て勉強頑張ったらどう?成績も良いんだから良い学校に行けるはずだよ」こんな話をされたシーンがふと思い浮かびました。これもお父さんの愛情なんだと思います。ACAねさんはいろんなことに博識で非常に賢い人だというのは歌詞を見ても、ACAねさんの発言の端々からも見て取れます。だから真面目に勉強して、就職して、誰が見ても恥ずかしくない仕事ができるようになってもらいたい、そんな期待をしていたんじゃないかと思いました。ACAねさんにも同じような気持ちがあったのではないでしょうか。というのもMVの中でニラちゃんはスコップを持っています。スコップは土を掬う(すくう)ために使うものですが、お父さんを救う(すくう)ことを表している気がするんですよね。形状的にスコップよりもシャベルのような感じもします、というのも「喋る」と掛けているような気がするからです。スコップとシャベルの違いについてはこちらを見てください。

進学校に行って、大学を出て優良企業に就職すれば経済的にも精神的にも助かりますよね。お父さんのことをなんとかして助けてあげたい、でも自分の思いも捨てきれない…そんなことを表現してる感じがしました。相手を思う気持ちが逆に鋭利なシャベルの先端のように鋭い言葉になってしまった、そんな後悔の念も感じました。
「正義まで押し付ける客観を」ですが、「正義」とは正義の考察でも書きましたが、お父さんがACAねさんを思う気持ちだと思います。それを客観的に見てACAねさんに勧めようとしている人物がいたとしたらお姉さんしか居ないな、と思いました。(お父さんとお姉さんの二人は仲良しだったと思われることも正義の考察で書きましたが、これも重要なポイントです)
自分の夢が実現するのか、そんなの未知数だし、むしろ上手くいかないかもしれない…お父さんやお姉ちゃんの言うことの方が現実的だから見逃すことは出来ないけど…という自問自答をしているところを表現しているように見えました。

同調したって中身無くて
正しさが正しくなれないほど
簡単に僕らを表せないように
お口直しを

本心は別のこと考えてるから、「うん、そう思うよ」って同調したって中身の無い返事してる。お父さんたちが言うことは正しいよ…でもそう言い切ってしまえるほど私の心の中は簡単じゃないんだ。口直しに別の話をしよう。

すごく複雑な心の中を覗いている感じがします。でも険悪な雰囲気で終わらせるのは嫌なんでしょうね、「お口直しを」の一言でそう思いました。やっぱり家族想いな一面もあり、わがままを言いたい放題言っているわけではないんでしょうね。優しさが滲む表現だと思いました。

怖いよ
何も感じない 苦しみを 探し求め
我に帰ってく
ひたすら 噛み締めた 恨みは
くだらんか? ううん
助かれ

家族のことや先のことを考えると怖いよ。まだ何も挑戦してないから、失敗したときや挫折した時のことを考えるとハッと我に返る。でも、これまでずっと抑え込んできた思いはくだらないものなの?ううん、違う。本当は自分も家族も助かって(=お互いが理解して支え合って)ほしいだけなんだ。

「恨み」と言うと、かなり大袈裟な表現のようですが、溜まった思いや怒りみたいなものもあったのではないでしょうか。さいたまスーパーアリーナで開催された「鷹は飢えても踊り忘れず」でも低血ボルトが歌われました。実はイラストレーターの革蝉さんもライブに行っていたのですが、こんな感想を述べています。

曲が演奏されている時にステージの演出で本物の炎が上がっていたんですよね。怒りの炎のように見えませんか?この演出にも意味があると思いました。
「我に帰る」という歌詞があります。「我に返る」というのが正しいのですが、夢を追いかけた結果、失敗して家に「帰って」きたという想定もしていたのかな、と思いました。

怖がることを金輪際
迷いに負けるなら
頭でっか血 ずっとうんと砕いてもっと
乱してあげて

怖がることはもう金輪際だよ。この先のことを迷ってお父さんたちの言うことに負けちゃうなら、頭に血が上ってる固い考えも砕いてあげたい。

奇想天外止められない 操れない僕に
期待したいんだ
切り刻まれ この皮膚に従うほど
無敵になれた

誰も予想しないような奇想天外な発想をする私、その思いに期待したいし、期待させたい。

考察を続けていく過程で他の曲との新たな繋がりが見えてきました。それは「正しさが正しくなれない」という歌詞です。「正しくなれない」…これは曲名ですよね。更に、正しくなれないのMVにはニラちゃんと戦う人物、グレイも登場します。(余談ですが、グレイ、グレイくん、グレイヌがいます)
このグレイはスコップを持っているんですよね。お互い「救いたい」という気持ちがあったのではないでしょうか…。

ACAねさんには現実を見てほしいと思いを留まらせようとするお父さんたち、お父さんたちの期待に応えようと自分の思いを締め付けるACAねさん、正にタイトルの低血(締結)ボルト(ボルトは締め付けるための道具であることから"FASTENING")の通りであり、そこから脱却しようとするACAねさんの"本心"がMVの主人公なんだろうと思いました。
こんな日常生活のワンシーンから曲を作れる感性、本当に素晴らしいと思います。

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