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新卒でブラック企業に入った彼氏の話。

初めて会った時、彼は22歳の冬だった。
年末の喧騒の中で待ち合わせをして早々
「卒論を印刷したいんで、
プリンターのインクを買いたいんです。」
と、言った。
家電量販店にてダサい鞄にインクを
購入しサッサと詰めた彼と夜の街を歩き出す
「大学を卒業したらどうするの?」と
私は訊いた。

内定は出ていて就職するとの事だったが
どんな会社で何をするのか聞いても
何だかハッキリしない。
「う~ん?大丈夫かな?何か変だぞ?」
と他人事ながら嫌な予感…
少し心配になったが
自分の時とは
時代が違うんだろうなと思い、
それ以上は
とくに訊かなかった。

後に嫌な予感は的中する事になる。

そんなこんなで

4月になり、彼は社会人になった
小柄なスーツ姿は七五三のようだ。

30歳の私は長いニート生活に終止符を打ち、
都内に出て働き始めていた。

人生やり直し組の自分と、
初めての社会人生活の彼は
慣れない社会人生活になんとか、
馴染もうと必死だった。

4月も半ばが過ぎ
なぜか彼は当初全く聞いていなかった
夜勤の仕事を沢山させられていた。
最初は研修という事で色々な所を体験しに
行かされるのだろうと思っていたが、
あまりにも頻繁で、拘束時間も長過ぎた。
昼も夜も連続で働き続ける日もあった
そして、採用時の業務内容とはかけ離れた事を
させられているようだった。
何か、変。
いや、絶対におかしいと私は感じていた。

少し世間知らずで子供だった彼に
年上の自分が余計なお世話をやくのは
どうかと思い、なすがまま、されるがままの彼を
見守っている体で放っておいてしまった。
今思えば、それが可哀想な事をしたと後悔している。

寡黙で真面目な性格で、会社から
やれと言われた事を必死にこなしていた彼は
粗暴な人が居ると嫌に思っていたようだが
休まずに仕事に行っていた。
昼も夜も詰め込まれた
滅茶苦茶なスケジュールだった。

ゴールデンウィークの終わりだっただろうか
会いに出かけた私は
彼が服を裏返しに着てるということに気がついた。
全く気が付いていない
彼はおっちょこちょいタイプでは無いので
疲れ過ぎて服の表裏もわからなくなっていたのだ。わからないというか、
どうでも良かったのかもしれない。

元々、表情に乏しく愚痴もあまり言わないから
私も深刻に考えていなかったが
「もうだめだ、ブラックだ。辞めた方が良い。」と確信した。

と、いうのも

私自身が職場環境が原因で心を病み、
我慢した挙句の果てに引きこもり体験がある為、
彼が心を病む前にブラック企業から引っ張り上げないといけない、と決意した。
「職場がおかしい事、心を病んだらなかなか
治らない事、他にも会社はたくさんあること…」
など、在り来りではあるけれど、
そんな感じの事を話した。


彼は顔を隠して泣きじゃくっていた。

しかし
会社を辞めるという決意には至らなかった。

あまりにも疲れ過ぎて夜勤明けに
お蕎麦屋さんへ行き
ざるそば&ざるそば(大盛り)を頼むという
訳の分からない事をしていたらしい


夏が過ぎ、秋になる頃
保険や事務手続き、給与面でも等でも
会社の管理の
おかしい所が露呈していた。
もはや私も驚かないし呆れ果てたし

社会人に出たばかりの若い人を騙して
こき使う社長に対して憤りを感じた。
彼も辞める方向へ考えていた


「支払われるものが
支払われていない。」

おかしいのは明らかだが、
実際、法律的に
何がどう問題なのか確認する必要を感じ
インターネットで調べ、
労働相談の専門機関へ二人で足を運んだ。

二人で行くなんて過保護な気もしたが
難しい事を、教えてもらったり
説明されても覚えきれなかったりするから
話をする本人と言われた事をメモしたり
後で一緒に整理したりする事ができるので
二人一緒に行って丁度良いくらいだった。


さすがブラック企業。
真っ黒だった。

なんか、もう、全部ダメって感じ。

辞めてから転職先を探すのか…
はたまた転職先を決めてから辞めるのか…

色々と考えたり
私の父親が倒れたりと様々な事が起こり
落ち着かないが毎日は忙しなく過ぎていった。


また春がきた。


彼の転職先は彼の仕事上の知り合いの
ツテで決まった。


退職届を出し、

気まずい雰囲気の中、彼は最後の日まで働いた。

退職日にも社長は彼に対して何も言葉もかけず
ふてぶてしい態度で

彼を会社のグループLINEから
外すという事のみをサッサと行っていたそうだ。

彼は翌日から新しい会社で働き始めた。
優しい同僚達に頼りにされたり
楽しくやっているようで現在に至る。


あれから、

もう少し調べを進め
ブラック企業には
それ相応の手段を用いて
出るとこ出させて頂いた。

(彼が給与明細や労働契約書を
とっておいたのはす良かった。)


社会に出たての若者を
自分勝手に使う。
人を人と思わないような人間は
もう二度と雇用主に
ならないで欲しい。


もう少し早く、ブラック企業から
抜けさせる術があったのでは?とか
過保護だったかな?とか
今、考えてみれば色々と思う所はある。

思いつめて自死とか、
疲れきって事故とか、

そういう事にならなくて良かった。
彼が元気で、本当に良かった。



ブラック企業で頑張らなくて良い。
むしろ頑張ってはいけない。
辞める事は逃げじゃない
自分を傷付けて心を病んだりする前に
辞めるべきだと本当に思う。


生きていく為には多少なりとも我慢は必要
でも理不尽な事に対しての我慢はしなくていい。


今は仕事がなかなか見つかり難く、
大変だけど
無料で相談できる場所、
周りの頼れそうな人とか
何でもいいから利用しまくることを
オススメしたい。


(※コ〇ナ禍より前の話です)

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