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「トイレも使えないから、仕事は前倒し」 コロナ禍で、トラック運転手にもしわ寄せ

カリフォルニア州で青果トラックの長距離運転手として働くジェイ・シンは、COVID-19感染拡大の中で、物流をつなげるために働いている。彼とその仕事を取り巻く環境について、サム・ブロックがインタビューしたものを、日本語訳した。(2020年3月26日 The Counterより)
原文: https://tinyurl.com/y9r48qh2

配達をやめたら、一般家庭の冷蔵庫も空になる

普段はほとんど目にすることのない食品供給網を、想像してみよう。農場労働者、加工業者、包装梱包業者、鉄道車両、流通業者、倉庫は網の目のようにつながって動いている。コロナウィルスが米国を席巻し、何百万人ものアメリカ人が国境の内側に閉じ込められてるあいだ、食料供給はまだ続いている。もし食料供給網が破綻したら、私たちは何も食べられなくなるだろう。

ジェイ・シン氏 (29歳) は、その網の目をつないでいる1人だ。カリフォルニア州ベーカーズフィールド在住で、8年間長距離トラック運転手をしている。ガソリンスタンドよりましな仕事がないか考えて、この道に入った。サリナスへ北上してレタスやホウレンソウを積み、乳製品を調達しにテュラーレまで運転する。それをウォールマート、コストコ、Little Caesars(※1)などの会社が所有する倉庫に運び込むのが、彼の仕事だ。

行く先はカリフォルニアとテキサスの間が大半だが、ときには東部のペンシルバニアまで行くこともある。道すがらファーストフードで食事をし、公衆トイレで体を洗い、国営ピクニック場の駐車場で寝てきた。しかしコロナウィルス感染拡大の影響で生活が一変した。レストランは閉店し、24時間営業だったトラックの駐車場は昼間営業のみに切り替えた。そして多くの州で、彼がよく利用していた公共の駐車場つき公園も閉鎖されたのだ。

シン氏が次の目的地に出発する数時間前に(※2)聞かせてくれた話を、編集し要約する。(サム・ブロック)

ジェイ・シン: 私はローディー社(※3)に登録して、カリフォルニアからテキサスまで農産物を運んでいます。トラックの運転手たちはいま不安を抱えています。でも私が一番つらいのは、トラック用のサービスエリアにあるレストランが閉まっていること。食べ物は手に入らないし、トイレさえ閉鎖されていて、配達先でも運転手にはトイレを使わせてくれません。状況は日に日に悪くなっています。家族からもう仕事をやめるようにいわれていますが、こういう配送業がアメリカの台所を支えているわけだから、やめるわけにはいかない。止まったら、今配達しているような大きな店から潰れて、誰も食料品が手に入らなくなります。

カリフォルニア州の運送会社から、最大の顧客であるウォールマートにレタスを運ぶことがあります。私の会社の取引先はTaylor Farms、SalinasのAndrew Smith、Earthbound Farmsみたいな大会社ではなく、たとえばベーカーズフィールドのSan Pacificみたいな小規模の農場からもオレンジを買ったりします。テキサス州全域 (ダラス、オースティン、サンアントニオ、ヒューストン) へのレタス配達も請け負っています。私たちの配達した倉庫からウォルマートが地元の店に供給する仕組みになっています。

20日前ぐらいは、まだ沢山仕事がありました。でもこの4日ぐらいは、注文は2割減です。レストランはすべて閉まっているし、彼らが大手卸売業者に何も注文しないので、私たちへの注文もない。私は1マイルあたり50セントの給料をもらっていて、何を運ぼうと、それだけが私の給料です。たとえば沢山のピザ屋が休む場合、チーズの注文は減ります。私は商品配達の注文が来るまで、何日も自宅でじっとしているしかありません。

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トラック用の休憩所は使用禁止?

3日前に配達を終えて帰宅しました。テキサスのエルパソではFlying J(※)が閉まっていたので、近くのマクドナルドに寄ったら、ドライブスルー営業のみ。トラックの車高ではドライブスルーは使えません。仕方なく他の車の運転手にお金を渡して、代りに食べ物—マックチキン2つとバニラシェイク—を買ってもらうようにたのみました。

私たちが配達先で行くようなところ、たとえばウォールマートは、もうトイレを使わせてくれません。以前はトラックの運転手も使えたんですよ。こっちの事情もわかってほしいから、他のサービスエリアが閉じていることも伝えました。でも答えは「弊社の方針ですので、コロナウィルス感染拡大防止のためにご理解ご協力ください」の一点張りです。

いまは家族経営の店が比較的トイレを使わせてくれて助かってます。トラック向けのサービスエリアのトイレがなくても、その駐車場に停めて、通りを渡って、家族経営のセブン−イレブンやバレロ、シェブロン石油などにかけこみます。アリゾナ州のPilot、ニューメキシコならギャロップにあるBombay Grillなどは、ずいぶん良くしてくれてます。

運転席後部には引き出すタイプのベッドがあるので、そこで毎日眠ります。数週間前、ペンシルバニア州ピッツバーグのC&Sで在庫一掃セールがあったのですが、コロナウイルス対策でサービスエリアとピクニック用の駐車場は使用不可でした。最近は午後5時以降に車を停める場所を探すのに一苦労します。夜9時過ぎなら空きはない。どこかに停めるようと高速を降りたら、その出口のある高架下に停められそうな場所を見つけました。とりあえず橋桁の路肩に停めて寝ました。

トイレのある休憩所を使用禁止にしたのは、ペンシルバニア州とオハイオ州からで、いまはどこも似たようなものです。今日からまた稼ぎにでかけますが、アリゾナやニューメキシコがどうなっているか、見てこようと思います。サービスエリアの整備の遅れで、清掃員や整備員は週一回のみ清掃に回っている、と運転手仲間が言っていました。サービスエリアは閉まっている所が多いし、交通量も少ないからじゃないですか。

高速の橋げたに車を停めて寝た。

今から配達に行くのは、テキサス州のテンプルです。取引先はH-E-B(※4)でレタス、ホウレンソウなどを配達します。会社側は配達物の受け取りのために、もう誰かをサリナスまで行かせていて、その人が私のトレーラーを運転するよう手配されている、と同僚から伝言がありました。そのスケジュールなら、11時間は運転するので、今日は午後5時までにはどこかに駐車しないと眠る場所を探して余計な時間を使うでしょう。コロナの前は朝8時出発で間に合ったのに、今は駐車場の都合がつかないので、朝4時に出発することが多くなっています。

今日はあまり長い距離を走らないでしょう。カリフォルニア州のニードルズという、アリゾナとの州境に行くつもりです。小さな町だから、トラックの停留所は見つからないかもしれません。でも私はもうどこでも寝られるようになったから。路肩に停めたら、夜8時も過ぎればぐっすりで、明日の4時に出発してアルバカーキへ向かえるでしょう。でもアルバカーキは駐車は難しいので、テンプルの近くのどこかに行くでしょう。

運転手仲間はコロナウィルスに感染したくないので、みな配達に出るのを怖がっています。こんなご時世で判断は難しい。仲間の5%ぐらいは運転したくない人もいると思います。でもそれ以外の95%は仕事を続けていて、私もその一人です。

※1 Little Caesars: ミシガン州に本社を置く宅配ピザのチェーンで、全米でのシェアはPizza HutとDomino’sに続いて3位。

※2 原文ではFreightlinerのCascadiaという人気車種だとわかる。インタビューに登場するシン氏とは関係ないが、カスカディア号の最新モデルはこんな感じ。https://www.youtube.com/watch?v=_s7O47p6-Uk

※Roadies, Inc: カリフォルニアの物流会社※Flying J: Pilot Travel Centers株式会社が米国およびカナダで展開しているトラック用のサービスエリアチェーン。本社はテネシー州。北米全土の主要道路沿いに750の支店があり、ガソリンスタンド、レストラン、休憩のための駐車場、シャワー、Wi-Fiなどを提供している。本インタビュー後に、配送業務従業者からの要求も受けて、同社HP上でCovid-19対策(4月15日時点)で店舗が閉まる時間などを明記するようになった。やはりレストランなどは夜間に使えないようだ。https://pilotflyingj.com/covid-response/

※4 H-W-B テキサス州に展開するスーパーマーケットのチェーン。


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