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「これがニューノーマル?」:ペンシルベニアの小さな町の精肉店は、コロナ禍で販売方法を変え、売上を伸ばしている。

ペンシルバニア州で精肉店を営んでいるトッド・オーマン氏は、コロナウィルスの流行で店自体は以前より繁盛しているが、仕事のやり方で試行錯誤している。2020年4月10日にthe Counterに掲載されたサム・ブロックによる電話インタビューを日本語訳した。
原文: https://tinyurl.com/y7xbfe4a

かつてはみんなが集う店だった。
今は誰も来ない。
でも商売は予想外に繁盛している。

トッド・オーマン氏は、ペンシルバニア州ウォミシングにある精肉店ダンドーレ&ハイスターの共同経営者だ。金融業から転職し、6年前に店を開いた。妻と共同所有するこの店は、愛情の産物だ。子どもの頃に通った精肉店を再現した店作りや、ペンシルバニア州に入植したオランダ人から取った店名も、自分の生まれ育った町を愛するからこそだ。

Covid-19の流行で、彼が橋渡しをしてきた地元の畜産農家の経営はひっ迫している。レストランの閉鎖に伴い、農業市場もより一層の変化を余儀なくされている。生産者が顧客をつかむことに苦労する一方で、小売業は売上を爆発的に伸ばしている。全国的に食料品の需要は急増し、肉も例外ではない。最新の市場調査では、今年の3月、アメリカのスーパーマーケットは前年に比べて鶏肉と牛肉を70%以上、豚肉を90%近く多く販売した(※1)。

オーマン氏の理想は、農場と食卓をつなぐ昔ながらの精肉店だ。店は地元で生育された牛、豚や羊をさばき、ステーキやチョップ、脂身などを目利きの愛食家たちに--試食させつつ--提供する。顧客との密接な関係を、今は手放すしかない。安全上の理由から、店は顧客に開放せず、車で来店する客に路上で商品を渡している。店はその時々の状況に合わせて新しい運営方法を考案し、いままでにないほどの売上を上げている。孤立と社会的距離を要される時代に、伝統的なコミュニティの店というビジョンをいかに維持するか。電話インタビューにてオーマン氏の話をうかがった。(サム・ブロック)

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トッド・オーマン: 前職は金融関係だったので、リスクを認識することは不得手ではありません。中国で起きていることを知るにつれ、私は不安になりました。会社として何ができるのか、周りの人と最悪のシナリオについて話していたんです。

最初の変化は、店が以前よりも忙しくなったことです。購買行動に著しい変化が見られました。朝や昼にサンドイッチのような調理済みの食品を買う人が減って、かわりに冷凍庫で保存できるものが売れるようになったのです。
30、40、50%と、売上がどんどん上がり、スーパーでは品薄になっているもの—牛ひき肉、スープストック、冷凍スープ、冷凍鶏肉など―が売れ筋になりました。今は圧倒的に新規のお客様ばかりです。いままでお会いしたことのない皆さんが、私たちのところに来てくれます。スーパーの品切れを、この店で埋め合わせようすると、量の急増だけでなく、人々が求めるものの種類という意味でも、かなり大きな変化です。

いままでとやり方を変えて、店外の路上での商品引き渡しをしています。お客様はもう3、4週間店自体には入って来ていません。つまり、店には鍵をかけ、在庫切れが起きないように補充しながら倉庫として使っています。お客様には前もって電話で注文していただいて、私たちが冷蔵庫からそれ取り出して包装し、クレジットカード決済をします。予約時間にお客様が車でいらして、商品を渡すという流れです(※2)。

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5、6、7台の車が整然と並んで待っている光景は、いささか現実離れしています。店は空っぽなのに、お客様は沢山いらしている。でも会話は一切ない。頭ではわかっていても、実際やってみると不思議な感じがします。この路上での受け渡しは、きっとしばらく続くと思います。「しばらく」の定義は誰にもわかりませんが。

コロナウィルス流行の前は、ここが町の人の集まる場所でした。とにかく皆と話して、お互い知っていることを共有したりして、仲良くなることを大切にしてきました。お客様が店に来たら、私たちの精肉についての知識や、肉屋らしからぬサプライズも含めて、楽しませたかったんです。コロナのせいで、今はそんなおもてなしは一切できません。

ここで働いてくれているマスク姿のスタッフは、みな素晴らしい人たちです。店や農家のこと、肉に関する質問にも全部答えてくれる、気のいい人たちばかりです。この店の朝食用サンドイッチの口コミを聞いて初めて来店するお客様とも、みな簡単に打ち解けます。精肉加工班のリーダーのマークは人気者です。仕入先農家のこと、小売用の肉のことから、熟成ステーキのことまで質問攻めにあいます。でもそうやって会話を弾ませて、うちの商いは成り立ってきました。それも今は遠い昔のことのように感じます。

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安全確保で日が暮れる。
最優先はお客様とスタッフを守ること。

オンライン販売への完全移行をしたらどうなるか?対面で血の通う商売をしてきたノウハウをどう活かすか?これから起きることに対応できるか?つねに頭の中は考え事でいっぱいです。

今週からマスクの着用に加え、出勤時にスタッフの体温測定をしています。お客様に合わせて、私たちもマスク姿でいれば、きっと少しは安心していただけるでしょう。

うちの店は狭いから、スタッフの安全を守るために、できる防護はして損はないと考えています。掃除道具、消毒道具もすぐ手の届くところに置きました。それでも毎日「お客様とスタッフを確実に守るには、これで充分だろうか」と悩みつづけています。こんな小さなお店では社会的距離も取れないので、いつも最新のニュースを見ては、営業時間内であっても調整していきます。

取引先農家のひとつは、ペンシルバニア州のベッドフォードにあります。ここは生産できる肉の95%をピッツバーグのレストランに卸していたので、いまは困窮しています。少しでも支えたいので、うちに仕入れる量を増やせないかと相談をしているところです。

先が全くわからないのは、恐ろしい。取引先からも消費者からも需要があるのに、すぐ踏み切れないところです。もし誰かが病気になっても—こればかりは神頼みですが—別の町からチームを連れてくるわけにもいきません。なにかの時に余分な在庫を抱えていたらと考えてぞっとします。ここで無理をしすぎたら、リスクを増やすだけです。いまは明日、明後日に何が起きるかわからないのですから。
危機管理に追われているので、営業日を2日間減らして、今は週5日にしています。この2日間を再編成と次の戦略立てに充てるのが、事業とスタッフにとって健全なやり方です。今はそうやって農場からの買い付けや顧客の需要になんとか間に合わせています。お客様とチームの安全を確保しながら、続けていくことが最優先です。

店を続けることは、いまの使命だと直感しています。どこか今の状況にひらめきを感じているのです。私たちは医師、看護師、救急隊、警察、消防隊のように最前線の職業ではありません。でも、栄養のある地元産の肉を消費者に届ける役割には価値があります。今はみんなとても感情的になっていて、9.11を思い出します。とにかく、できることからやるしかない。

※1 https://www.upi.com/Top_News/US/2020/03/26/Retail-meat-sales-up-77-percent-amid-coronavirus-pandemic/7871585177646/

※2コロナウィルス対策で、車での来客に対応するdメニューはgoogle documentで見ることができる
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1szORRg6Sf3lWXrnDqN-OCgO64lWDny2IslD4syy7rgY/edit?ts=5e71358b&fbclid=IwAR3JNYWGzEQraITnr2PfbSVNvkSV6A_EHp3G5Rj1pK0VpYJtn_tHegAyix0#gid=786156607


参考までに、コロナウィルス流行以前の同店の様子

写真の解説
・ヘッダー画像: 店内の様子
・冷蔵庫から商品を取り出す店員: 予約が入ると、来店時間までに店員が注文の品を揃える
・持ち帰り用の袋: 「農家のおすすめセット($25):ラディッシュ、人参、アジアのサラダ野菜ミックス、レタスミックス、ルッコラ、レッド・ケール」
・商品の揃った買い物かごとマスク姿の店員: 最近営業時間を週7日から5日に短縮した

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