ユートピアデイズ


直前話↓

ユートピアの名はシティ・ファーヌ。
旧地名の富和野と、『新しい住民』の“船”の名、“ファーヌ”が融合した名だとも、新しい住民の言葉で“命”を意味する“ファノ”からきてるともいわれているようだ。
ユートピアだからなんもしないでいいのかと思ったら、そうはいかなくて、適性による職業が提示されるという。
あたしの適性?
読心は嫌がられるだろうしなあ。
人や物を運ぶ力を、運送とでも称するか・・・
そう考えただけで、あの少年が笑んだ。
トランスポートだね。
物送がいい?
人送がいい?


さ、最初は物送で・・・

三日後には人送に回された。

簡単に言えば、車なしでタクシーやる感じ。
学校。
病院。
マーケット。
片道の仕事だけとは限らず、往復や付き添いもある。
相手に一瞬目を閉じてもらって、次に開くと現地だ。
燃費はあたしの食事代だけ、それも会社や社会が払う。
気味悪がられることもなく、素直に感謝されるのがありがたかった。
ただテレパシーが完全には切れない。
特に組織の若い子の悲鳴が。
そうなのだ。
わが国には今は毎日のように、何十発とミサイルが飛来していた。

たいていは頭越しに飛び去って行くが、たまに国土に落っこちかける。
組織の子たちは何とか航続させたり、異空間に消したりがんばってるが、いかんせん今年は数が多い。
あたしに届くテレパシーは日に日に悲鳴のようになってきていた。

なな!
もう無理!
ノースバレイラ潰して!

(無茶言うなよ)

なな!
どこにいるの!?
帰ってきて!

(いやだよ)

あたしケネスに嫌われてるしさ。
心の奥がちりっとする。
いまだちょっと好きみたいだ。
バカなあたし。

でもこの日、嘆きはノースバレイラの、シュウ・テイウォン(だったかな、発音が日本語に落とせない)のものだった。

なな!
なな!
俺たち人間空雷にされてる!!
実験機なのに!
実験機なのに!!

シュウ!!

俺はいい!
二番機の、イ・メイホンを助

バウン!みたいな感じで、思考が切れた。
え?
バレイラ、シュウはバレイラ一(いち)の能力者だろう!
なんで消耗品扱い、

きゃああああっ!

別の思考が悲鳴を上げ、

お母さん!!

ああこれが、イ・メイホン。
シュウが助けたかった子・・・

あ・・・たし・・・

やめて。

突然テレパシー感度がロストした。
割り込んだのはサミイ・ロウエル。
ファーヌ市長の息子にして、あたしがここで最初に出会ったエンファーヌコラッド(シティ・ファーヌ市民)だ。

あなた一人で世界は救えない。
だからすべてのSOSを一時的にだけどあなたに届かなくした。
不満なら戻ってもとの世界で生きてもいい。
でもその場合、こちらの記憶は消させてもらうし、シティは二度とあなたを受け入れることはない。

あたしは・・・

シュウ。
イ・メイホン。
うちの連中。
AZ-90・・・・・





私はきょうも人送する。
トランスポートに配属されて4カ月。
稼ぎはそんなに悪くない。




それでも地球は回っている