受難

宏樹が見栄張りな連れ合いを娶ったおかげで、私までタワマンに住む羽目になりかけた。
必死で断って断って、タワマン日陰の一角で、戸建ての小さいのを買った。
高さ60m超。
ウルトラマンタロウよりせいたかのっぽ。
昔六階で働いたことあるが、それでも揺れて嫌だった。
2066号室だって。
エレベーター止まったらどうやってあがるの?

やだなあ。
エレベーター六基あるんですよ?
全部一気には止まりませんよ。

宏樹はのんきに言ってたが。


止まった。
中程度の地震ながら超高層用エレベーターはとてもデリケートで、要・点検調整のサインを出したまま全停止してしまった。

20階どうやって行くの!?
階段!???


停止四日目。
孫が来た。
上まで行くのがつらい。
ばあちゃんちで暮らさせてって。
五日目。
宏樹も来た。
会社との行き来が難で、だって。
尚子さんは来ないの?
意地なの?
宏樹は何も答えなかった。


24階以上のセレブ層のためには、送迎ヘリが出ているという。
セレブと交流のある尚子さんは、載せてもらって四階降るのだという。
それってかえって惨めじゃないの?


尚子さんは来ない。
もう十日になる。
セレブもそうそう手を貸してはくれないだろう。


十七日目の朝。
14階・15階間の踊場で、倒れてる尚子さんが発見された。
激しく脱水していた。

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