君に贈る火星の

『君に贈る火星』は確かに名画だ。
でも画家の息子と友人な俺には、素直にその絵が楽しめない。
TUは言っていた。

惚れっぽくてだらしない男でさ。
飽きると簡単に捨てるんだ。
母が生きていた頃もそうだったし、別れてからもそうだった。
あの絵は七番目の女と市外に出た時の絵だ。
きれいな女だったが浮気だった。
親父は三度許したが、四度目は許さなかった。
彼女を市外に連れてって…

待てTU。
あれは火星だろう?
火星で市外ったらドーム都市の外ってことだ。
それって…

俺の戸惑いに、やつは答えず、代わりにこう言った。

あの絵のほんとのタイトルは、『君に贈る火星の薄い大気』だ。
体内外の気圧均衡が破れたら、人体はどうなる?

美しい背景に、吐瀉物のようなこびりつきがものすごい特徴の前衛表現。
では。
こびりついてるのは!



最近TUに会えてない。
TUの父君は新作を出した。
タイトルは、『金星で燃え落つるもの』。
惑星シリーズの一点だという。
観に行く勇気は俺にはない。


それでも地球は回っている