陽が落ちるまで

ノーダゼオーラは、ゼオーラ国王ノーダ・ストルクス・ゼノが自らと母アルメネ・メネルムネを追い出した傍流一族をすべて滅ぼし尽くすまでの、血の凍るような復讐の物語だ。
女子には登場する男性キャラの美々しさで、男子には登場する殺戮マシーンの見事さで、圧倒的評価されている。
たかがアニメ、されどアニメ。
大昔ならガンダム、昨今ならエヴァンゲリオン。
該当世代なら知らない人はいないのだ。
おかげでこの、新作にして最終話が公開されると、いつまで経ってもチケットが取れない。
やっと取れたのが今日なんて、運命の皮肉も甚だしかった。
母には言われた。
五時には絶対帰るのよ?
ごめんね、朝の五時だと思ってたー。
そんなすっとぼけが通じる母でもなく、
私は自分が従順に、四時半には帰宅するだろうことを知っていた。

門限は?

五時。

うちもそんなもんだ。

映画観ない手もあるけど。

せっかくだから観よう。
俺たちをつないだ記念すべきシリーズだもん。

着席し、集中し、手をつないだまま、泣きながら観た。
あんまりだ。
ゼノが仇敵ザッスエーの子だったなんて。
なんのことはない。
ゼノが殺してきたのは全部自分の兄弟姉妹たちだったのだ。
そういえばレレーナが戦う前に、

おまえは他人な気がしない。

って言ってたの、このせいだったのか?
にしてもあんまりだ。
あんまりだあああ。

私があんまり泣くので、私と恭、どこへも行かず、ずっとロビーにいた。
三上映回終わるまでそこにいて、やっと出た。
泣きはらした目。
何を食べる気にもならない。
ただ二人で並んで歩く。
CDショップで立ち止まり、

私、ちょっと買ってくる。

ノーダゼオーラのサントラ盤。
交響詩篇のほう買った。
あたしたち二人とも持ってないやつ。

あ、それほしかった。

だめ。これは今日会う初見の兄上にあげるの。
ノーダゼオーラ大好きなんだよ?

四時が近づく。
帰りたくない。
恭も私も気持ちは同じだ。
それでも!!

ゼノはシエナと結婚するよね。

作品だからな。
何でも通る。

私は……


私は別れたくない!!


ついに言ってしまった!


恭も私を正面から見てる。

抱きしめられた。
頬がふれあった。
唇と唇が重な

      る寸前で、

恭のキスはおでこになった。

さよなら。

私も言う。

さよなら。


佇む私を残して、恭が夕闇に消える。
終わったんだ。


五時。
母と私は待つ。
運命に引き裂かれた兄と父を。
元夫婦の再婚。
引き裂かれた家族が一つになるのだ。
すばらしいことじゃないか。
ただその兄が、


私の恋人でさえなければ。


宵闇の中からあなたが父と現れる。


麻衣さんだね。
恭です。
『はじめまして』。


私も言う。
『はじめまして』。
引き裂かれた家族が一つになるとき、封印されなければならないのは互いの恋心。


はじめましてお兄さん。
あの、ノーダゼオーラお好きだって聞いたから……これ。
差し出す交響詩篇。
受け取る兄。
恋人だった兄…


ありがとう。
大事にする。


ほほえむ瞳には、もはや兄妹愛だけ。
私の初恋が、いま、かき消えていくのだ。


それでも地球は回っている