フィクション・とある国の、とある王族物語の一部分②


アンファンスルーレイ〔再録〕

ルティねえさまと同じ学校へ行くのだと思っていた。
セーサラストゥリーヌ。
王族の学校。
なぜ僕は行っちゃいけない。

僕はたまに倒れる。
三時間から十四時間昏睡する。

セーサラストゥリーヌの幼稚舎の入舎生活練習日に、中庭で倒れた。
学校医が、既往について尋ねたとき、かあさまは逆上したという。

わざわざ作ったこどもです!
間違いなんかあるわけないじゃないですか!

わざわざ作ったこども?

こどもって作れるものなの?
しぜんに生まれるものなのじゃないのですか?

結局僕はセーサラストゥリーヌでなく、アンファンスルーレイに行くことになった。


アンファンスルーレイの、最初の遠足が動物園だった。
生まれたてのミュシャがいた。
ねこ族。
小さいけど狩りがうまいらしい。

抱っこしてみますか?

飼育員が差し出すが、かあさまは目をだめってしてる。
かわいいのになあ。
せめて言葉を。
何言おう。

このこどもも作ったやつですか?

せいいっぱい言ったんだけど、かあさま金切り声上げた。

カメラ止めて!
止めて!!


映像。
外に流れたのがあるらしい。



ミュシャはかわいいよおおお。
13ヶ月になるまでなら、すごく懐くらしい。

触りたかったなあ。
にしてもルティは物知りだね。

動物も植物もすきだから。
昆虫も。

うちは動物も植物も昆虫も触らしてくれないよ。
ねえさまたちも嫌いみたいだし。

エリュスどうなの?

うーんわかんない。

触ったことないものはわかりようがない。

にしても…

こういう話ができるのが、ルティだけって何でさ。

お付きの人もだめ?

すぐ変わっちゃうから。

私四才の時から同じ人だよ?

すごいなー!

かあさまはいつも不安定だ。
僕に厳しいからってやめさせた人がいるかと思えば、優しすぎるといってやめさせた人もいる。
放任だってやめさせた人もいれば、スケジュール詰め込みすぎってやめさせた人もいる。
おかげで僕は気心のしれたお付きがぜんぜんいない。

今度なんか触らせたげる。
約束。

ルティが小指を立てた。
僕は意味がわからなくて、ただただ立ち尽くしていた。
その指に自分の同じ指を絡めることが約束の印になるのだと知ったのは、それから五年もあとだった。


初出

2020年9月4日 11:21


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