えりいざ

 オーソリティが言う
 そんなのはないのだと
 でも
 私はみつけたもん
 『えりいざ』は肌をいやし、痣を消し、シミもソバカスもなくしてくれるのだ
 『えりいざ』は究極の美容液をうみ、日本女性は世界に冠たる美しさを手に入れられる…はずだった
 検証実験悉く失敗
 論文にはコピペが随所に発見され、応援してくれていた企業が、個人が、文字通りの手のひら返しで私への出資を打ち切った
 保存庫内のサンプルまでがなくなった時、私は身内に裏切り者がいることを認めざるを得なかった
 検証失敗の会見の席でひたすらわびるオーソリティのせなかをにらんでいるうちに、怒りがじりじり上がってきた
 私はマイクを奪い取ったが何も思いつかなくて、悲しみは絞り出す一言に果てた

 『えりいざ』はあります!



 二年後。
 オーソリティの子飼いの学者~もちろん男~が『りるず』を発表した。
 『えりいざ』の六分の一しか美を保てないけど、その程度が民心にはそぐう。
 『えりいざ』は美容効果が高すぎた。
 オーソリティの支援者は美容業界の大物が多かったから、あれを世に出すわけには行かなかったのだ。
 でも悔しがることはない。
 同じ二年間で、私は私本来の『えりいざ』を完成したから。
 向こう五十年私は老いない。
 その喜びを私は分けない。
 それがそう、私からの人類への、ささやかな復讐なのだ。



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