レインズ・デイズ・アフター番外編⑥『ラック』


 レインでは『ラック』が好きだ。

 しっとりした曲想の多いレインの中で二、三曲しかない軽快な曲。
 レインのファンは圧倒的にしっとり派なのでリクエスト番組にメールだしても滅多にかからない。
 だからその夜かかった時はめっちゃうれしくて、てっきり自分のリクエストした分だと思った。
 アナウンサーの最初のトーク聞き逃したし、エンドトークのあたりでは既に夢の中だったし。
 もちろん学校で自慢した。
「『ラック』かかったんだよー。アタシのリクエスト」
「ちげーよ」
 あー、またわりこんで来るKY広田誠。
「リクエストはタマオさんって言ってたぞ」
「えーっ! またあ? うそだあー」
 またまたタマオさんだー。
 数少ないラックチャンスの半分以上持ってくタマオさん。
 どんな奴なんだ。
 そんなことを考えてたら、クラスがざわめき始めた。
「レイン死んだ。裕太死んだ!」
 何で??

 Sアリーナに、裕太はヘリで登場するはずだった。
 ヘリは来た。
 縄ばしごに裕太いて。
 それから。


 七万人の目の前で、裕太は死んだ。




 ものすごいショックだった。
 立ち直るのに二年かかった。
 KYの広田が何くれと気にかけてくれて、同じ大学進んで、卒業する頃にはアタシにとって、なくてはならない人になっていた。

「ばーちゃんち行くけどくる?」
「いくいく! マコのだいすきなとびっきりばあちゃんでしょ?
いくいく!」
「あ、でもな」
「何」
「や。いいんだ」

 なんだか奥歯にものの挟まったような言い方で腹立ったけど、とびっきりばあちゃんはほんととびっきりばあちゃんで、アタシも一発でファンになった。
 ゆでて貰ったトウモロコシを夢中で食べてると、近所の人がばあちゃんを呼びに来た。
 タマオさんおるかねー。

 タマオさん。

 タマオさん?

 マコをみると目をそらす。
 すごく困ってる。
 合点した。
 マコがタマオさんだったのだ!


 ラックがかかんないかかんないってあの頃愚痴りまくってたろ?
 だから俺もリクエストしまくってやったんだ。
 なのにおまえ、タマオさんライバル視すっからさー、言い出しにくくなっちゃってさ……

 裕太が逝って五年。
 もう解禁してもいいかもしんない。
 アタシはきっとマコに嫁ぐだろう。
 そしたら嫁入り道具は、何をおいてもあのCDだ。

それでも地球は回っている