こどもと財布〔雅樹(かつお)さんに捧げる一作〕


雅樹さんのお子さん(三才)がある日、

おさいふが欲しい

と言ったのだそうだ。

雅樹さんは狼狽し、お子さんに理由を問うたのだけど、実は私は答えの察しがついた。
たぶんこう言うんだろう…

おかねを貯めて、パパとママにお土産を買ってあげるの。

大当たりである。
雅樹さん。
しっかりしなさい。
これは典型的なグリム童話。
タイトルは、『木のお皿』だ。


よぼよぼのおじいさんに、若い夫婦がした仕打ち


主人公は、ひどく年を取ったおじいさんと同居している若夫婦。
おじいさんがよぼよぼで、目も悪く、手足がぶるぶるいつも震えているのが気にくわない。
スープは口からこぼれるし、食器も取り落として割ってばかり。
夫婦はついにおじいさんの食器を木に変えた。
落としても割れないし、経済的だからだ。
若い夫婦が美しい食器で食べている間、おじいさんは末席で、木のお皿に盛られたささやかな料理を、ちょぼちょぼちょぼちょぼつまんでいるのだった。


さてそんな夫婦には、四才になるこどもがいる


ある夕暮れ、こどもは小さな木切れでいっしょうけんめい何かを作ろうとしている。
いとけない者の愛らしいしぐさに、夫婦は何気なく、限りなく優しく聞いた。

坊や坊や。
そんなにいっしょうけんめいに、いったい何を作ってるの?

こどもは屈託なく答えた。
あどけない笑顔で。

ぼくが作ってるのは木のお皿。
大きくなったらこれでぼく、おとうさんとおかあさんにごはん食べさせるの。

さすがに夫婦、はっとなる。
こどもは私たちを見て、そっくり同じことをするのだ…
二人とも涙に濡れて末席のおじいさんを見やった。
二人で優しく腕を貸し、おじいさんを上席に戻し、詫びた。

おじいさんごめんなさい。
私たちが間違ってました。

それからは家族四人、一つテーブルで、ちゃんとした食器で仲むつまじく、末永く暮らしたそうだ…


てことはつまり…?


雅樹さんと奥様は、ごく何気なく、こういう会話をしてしまっていたのではないだろうか?


えー?
出張のお土産はー?

きみもこないだ手ぶらで帰ってきたじゃないか。

そんなに余裕ないもの。
お財布の中見てよ。
空っぽよ?

で、三才は考えた、おかねを貯めて、パパママにお土産を…

健気だ。
でも彼は一つ考えの及んでいない点がある。
お財布は外身である。
お金は働くかなんかしないと増えないのだが、彼の年ではなかなか稼ぐことができないのだ…
タレントにでもなってもらうか?


それでも雅樹さんはまず、お望みのものを与えてみた


ここが雅樹さんのえらいところ。
彼はお子さんに、大人も持つような財布を選ばせた。
プリキュアでもライダーでもなく。
パパ的にはスヌーピーをおすすめしたかったが、本人のシブい好みを認め、キャラクター物でない逸品を与えたのである。
そして今、お子さんの財布には、なぜか小銭が2000円分もある。
彼はよっぽどいい仕事をしているのだろう。
父親に貸して利息を取ったらいい、と私は思う。


財布とこども、こどもと財布


お金の価値
お金の手に入れ方
お金の大切さ
お金の怖さ

そういったことを少しずつ、教えていきたいと雅樹さんはいう。
お金の扱い方を知っている親は幸いなるかな。
今回のテーマをいただいて、どんな文章にしようかなと、考えあぐねて一週間。
知人と話す機会があった。

今なに書いてるの?

こどもと財布。

え?
こどもは財布?

違う!
こどもは

だから財布でしょ?

違うったら!!

冗談のやりとりでも、胸が痛かったのは、彼女が親にされたことを知っているからだ。
大学へ行くための奨学金を、親は使い込んで姿を消した。
彼女は自分が一銭も使っていない奨学金を、今も返し続けている。
こどもの財布。
こどもと財布。
こどもは財布の親もいる。
確かにいる。




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