幸せ(2/4)

 校庭の桜の木の枝に並んで坐る。
「桜井問題だね」
「桜井問題だ」
「男だね」
「男だ」
「そりゃあ死ねだわ」
「そりゃあ許せだわ」
 では、幸せは?
「仲直りか?」
「破談か」
「宝くじでも当ててやるか」
「あまりにも漠然でしょうそれ」
「当てることは出来るよ? フィニー、フィニフィー、フィリフィフィー……」
「ストップ!」
 あたしはファノンを激睨む。
「お金じゃない」
「お金だよー」
 誰、か、わかるこの声……
「ヴィミニー?」
「当ったりィ」
(何でみんなこのリアク?)
 上の枝からぶらんと、鉄棒ぶら下がりの要領で現われたのは、あおの髪、あおの目、ヴィミニー31世だ。
「ボクの担は金ほしくってうずうず」
「何でここにいンの」
「担がもうすぐこっち来るから。あ、来た」
 あたふたと走ってくる、スーツ姿の男。
 顔見てあたしとファノンがあっとなる。
 桜井通……!

 金がほしい桜井通。
 結婚せかされてる立木里沙。
 立木恨んでる沢村美由。
 この図式。
 こんどこそ事情は明々白々だろう。
「ヴィミニーは金の呪文。うちらは仲直りの呪文でどお」
「ファノンは破談にもちこみ、あたしは美由に新しい男。これでどお?」
 よさそうには思える。
 けど……
 あとからあとから情報が出る。
 簡単に判断するなってコトなのかも知れない…
「金と破談と新しい男でいいのかもしれない。でも違う側面が、あとから出たらどうする?」
 ヴィミニーとファノンが顔見合わせる。
「三時間待とう。三時間経って新展開なければ、金と破談と新しい男でいこう。それでどお?」
「意議なあし」

 とりあえず各々の担に張り付く。
 沢村美由を見守る。
 あらためて思う。
 すごい美人。
 立木なんて足許にも及ばない。
 でも心映えが黒い。
 一瞬もゆるがず立木を恨んでる。
 それも『こんな美人のアタシを振って!』ならまだ可愛げがあるけど、ーもニもなく立木が憎い。
 どういう心理構造してるのか。
 生徒が生活日誌持ってきたが、そこ置いて、みたく場所を示しただけで、顔つきさえ変わらない。
 生徒……好きじゃない?
 学校は?
 自分の職業は?
 沢村美由、あんたどーゆー人なのよ……

 見ているだけでは何もわからないので、とりあえず立木たちの方を見に行った。
 ファノンとヴィミニーが手招きする。
「修羅場修羅場」
 まじで?
 並んで覗くと、うん、確かにそこは修羅場だった。

 桜井通と立木が言い争ってる。
 だから私は美由を泣かせてまで、結婚なんかしたくないの。
 そんなこと言ったって、俺たち約束したじゃないか!
 ごめん私、あなたと結婚できない。
 ていうかしたくない。
 あんまりだ!
 俺めいっぱいあいつになじられたのに。
 甘んじて受けたのに。
 里沙、おまえってサイテーだよなっ!
 なじってなじってなじり倒して、桜井通は去って行った。
 殊勝な顔をしていた立木が、つと顔を上げる。
 笑っている。
 満面の笑顔だ。
「やったああっ! 電話電話!」
 指輪フォン手にする。
「コール短縮01」
 呼び出している。
 相手が出た。
「美由~! OKだよ。今日行っていい?」
 美由!?
 返事もなく相手は電話を切ったが、立木の笑顔は全然崩れない。
 あたしたちはただ茫然とうかれる立木を見ている。
 三時間後なんて生ぬるい。
 もっとじっくり見ないと……

 夜半。
 あたしたち三バカトリオは美由のマンション前に再集結した。
 その時間までには、相当なことがわかっていた。
 主としては、フラレ男の愚痴からだ。
         *
「美人二人だから目移りするの当然じゃんか。それでもちゃんと選んだんだ。美しいだけの陶器人形より人肌元気女。式場まで決めたのに、女ってやつはよォ……」
         *
 泥酔の愚痴をたっぷり聞いてきたヴィミニーは、肩をすくめて言った。
「ボクあんたらから離脱っ。失恋の痛みとか忘れさせてオッケーにする」


https://note.com/amisima7/n/naa5718f9f48c

に続く

それでも地球は回っている