雑多な意見:(専門書のリセール)

 最近(と言っても1か月も前)、新学期を迎えたところで我々学生は授業に使う教科書を買った。その時知ったのが、「先輩学生が使った教科書の寄付を募り、後輩学生に安価で販売し、売上を途上国に寄付するNPO」の存在だった。

 確かに、金銭的に余裕がなくなりがちな学生にとっては大体の場合半年から1年しか使うことのない、それでいて高価な教科書ないし学術書を正規に購入するのは苦しいことであり、それが安価で、書店に行くよりも楽に手に入るというのなら、在学生にとってはありがたい活動なのかもしれない。加えて途上国の子供たちへの支援を行えるというのなら尚更だろう。

 あるNPOでは、10年の活動実績の中で40000冊以上の教科書をリセールし、寄付実績は3000万円にも上るという。およそ1年で300万円の実績と考えれば、世界の教育に対して大きな貢献をしていることは間違いない。



 一方で、このことは日本の学術界においては損失になるのかもしれない、と感じている自分もいる。

 大学の授業において用いられる専門書の類は、もちろん数学で言うところの「東大出版会」のシリーズなど、初版から改訂されることなく何刷もされているものも確かにあるが、例外を除いて多くは2版、3版と改訂がなされる。勿論、改訂には資金が必要であるし、その有無の決定に書籍の売上は大きく関わるだろう。

 書籍の中には、元より刷数が少ないものも数多く存在する。そんな本で同様の行為が行われたとなれば、尚更その本の出版に影響が出る可能性が高くなるように思う。

 実際には自分が思うほど、書籍販売のビジネス体系は貧弱ではないのだろう、これが懸念点であることには変わりない。今後のさらなる専門書の価格上昇や、書籍の絶版などの、学生・学者にとっての不利益が生じる恐れは変わらず存すると自分は考えている。

 古本屋でも同様のリセール行為は行われているのであるから、世界の貧しい国々への支援をやめるべきだ、などと言うつもりは毛頭ないが、支援を行うにあたって、財源を確保するために用いる母体は、日本の学術界のような極めて細く、頼りない所である必要はないのではないかとも思う。

 これが杞憂で終わることを祈るばかりだ。

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