初めての体験、ゲイバー編。

ひょんなことからゲイバー（正確にいうと、ニューハーフの飲み屋）に行くことになった。

しかも夫の叔父とである。

たまたま叔父の連れが行けなくなったので、誰か行くか？という話になり、「それでは私が」と手を挙げてみた。
こんな機会は滅多にないのだから、乗るしかないだろう。

自分の父親くらいの年齢の夫の叔父と、夜の祇園へ向かった。
叔父には家族共々お世話になってるが、まさかゲイバー初体験を共有するとは（叔父も初めてである）

叔父はおまもり用にと、お店に入る前にショートホープをコンビニで買っていた。
わたしは心の中で「おまもり？」と、首をかしげた。

平日の早い時間だったため、お店の中には客はおらず、わたしと叔父の前に、面接官のようにニューハーフ二人が真正面に座った。

見たところきれいな女性であるが、やはり声は異様に低い。
堂々と二人とも真正面からわたしたちをガン見するので、興味本位で来ただけというのがお見通しのようで、余計に焦る。

隣の叔父をみると、姉さんにホープに火をつけてもらっていた。
「（お客に）煙草に火をつけたの久しぶりだわ～」とか、
「お店で無理してお酒飲まなくてもいいの。わたし飲めないんでって言えばいいだけだし」とか、
ホステスに有るまじき発言を堂々と発する姉さんに、ぽかんとしてしまう。

勝手なイメージで、こういう店ではミッツやマツコやナジャみたいな人が出てきて、キョーレツな話芸で笑わせてくれると思っていたが、普通のきれいなホステスさんがしっとりとお酒をつくってくれたりするクラブとなんら変わりなく、わたしがここへ来てよかったのだろうか？と、やはり焦るのである。

むしろ、あんたら親子か？という謎の二人がしれっと客として入ってきたのだから、やりにくさったらないだろう。

店内無音、両者手探り状態の空気に耐えられず、わたしは勢いよく生ビールをあおった。
そして聞かれてもいないのに、生い立ちやら、恨み辛み、ジェンダーに関することなど、キャバクラでから回ってしゃべり倒すおっさんのごとく、べらべらしゃべり続け、姉さん二人にゲラゲラ笑われ、時には唖然とされる始末。

ビールをあおり、もう家に帰りたいと思った瞬間、ママが出勤してきた。

このママこそ、イメージ通りのママであった。
安定の女装家としての風貌、喋りは漫談家もしくは噺家。
饒舌なトークは目の前でショーを観てるかのようであった。
たたみかける様な話芸に思わず唸る。

ママのプロフェッショナルぶりに実に感動した。

気づくと私たち以外にも客がちらほら来ていて、しかもグループでなく、皆おっさん一人で来ているではないか。
ただにこにこと微笑んでいるおっさん、せっかく来ているのにスマホばかりいじってママと目を合わせないおっさん、ますますわたしの興味はママ以外にも広がっていった。

そして機関銃のように客をイジリ倒すママ。

きっとここに来る客はみんなママの話芸と、イジってもらうために来ているのだと思うと納得した。

わたしもママに気持ちいいくらいにイジられ、説教されることとなった。
彼女たちは厳しくも本当のことしか言わないので、上辺だけで喋る会話よりも数倍優しさを感じるのであった。
気づくとしっかりとソファに根がつき、本腰を入れかけた瞬間に、

「そろそろ時間が遅くなってきたし、帰ろか」と、叔父に冷静に諭され、帰り際、ママに「今度は子供連れてきなさいよお～」と笑顔で見送られた。

義母に子守をお願いしていたので、名残惜しく家に帰ると、４歳の息子が「おかあさん、どこに行ってたの？なにしてたの？」と、つぶらな瞳で聞いてきた。

「社会勉強だよ」とだけ答えておいた。

2017.3.5『もそっと笑う女』より