チンピラに絡まれたら人間どうするのか
よくニュースなどで、煽り運転で輩が罵倒してるシーンの映像などが取り上げられるが、それを見る度に「こんなやつ本当にいるの?」と疑問に思っていた。世界は広いので確実にいるのだろうが、ましてや自分が絡まれるということは、どこかに出かけたとしてもほとんどない。
しかし、だ。遂に、当事者となる場面に遭遇したのである。
子どもと買い物に行った際、駐車場が満車だったので、端の方で順番待ちをしていると、まずは1クラクション。サイドミラーを見ると黒いセダン。もう少し詰めろということなのかと思い、前へ詰める。
そしてその数分後、セダンから『じゃりん子チエ』に登場しそうな、ジャージのおっさんが相当な見幕でガニ股で向かってきて、巻き舌でこう言い放ったのである。
「お前見えへんのか!そこ軽止めれるやろ!この車乗用車やとおもてんのか?!ボロッボロの軽乗りやがって、あほかぼけ!なんたらかんたら」
確かに1台止められるスペースがあったのだが、非常に狭いスペースで囲われていたので、止めていいのかわからず待機していたのだ。すぐそこへ駐車して、車を止めた。助手席の子どもは「へんな人に絡まれて」不安そうな顔をしている。
そしておっさんの巻き舌の罵倒が頭の中でリフレインした。注意されるのは構わないが、人の車をボロボロだのバカにすることを言われる筋合いは全くない。ボロボロでもないしっ!
すっかり頭にきて、おっさんに一言物申そうと向かうと、おっさんは変な動きで店へは入らずすっとどこかへ消えた。
「おっさんどこ行ったんや」と探していると、子どもが不安そうな顔で「やめようよう」と顔をのぞきこむ。頭の中で「騒動になると子どもに嫌な思いさせるかもしれない、ややこしい輩に絡むな」と冷静な声が囁いで、一旦店へ入りかけるが、
「いや、あんな罵声は失礼すぎる、そんなこと言われる筋合いはない」ともう一人の自分が背中を押して、気づくと店を出ておっさんを探した。
端っこの隠れた場所で、おっさんはイラつきながらタバコを吸っていて、鼻息荒く近寄ると、おっさんはぎょっとした顔で構えた。まさか子連れの軽に乗った主婦が自分に向かってくるとは思ってもいない顔だ。
「あの場所に止めていいのかわからなかっただけですしね、それに、人の車がボロボロだのくそだのアホだの言われる筋合いは全くない!あんた失礼すぎる!!!」と怒鳴ると、おっさんは明らかに動揺した顔で、「もうあそこ止めたんだからいいじゃないのかよう」と面倒くさそうにわたしを追い払おうとする仕草を見せた。
「いや、失礼だ!!!」と抗議申し立てると、おっさんは尻尾巻いた犬のようになったので、言うこと言ってその場を去った。
店に入ってからも、「あの、おっさん腹立つわあ!なんやねん!」と眉間にシワを寄せて買い物していると、息子が冷静にこう言ってきた。
「お母さん、もう行っちゃだめだよ、長生きできないよ?」
確かに。
子どもの方がはるかに冷静だ。
その時、同じような風景を見たと思い出した。
わたしが息子くらいの年頃に、母と駅のホームにいた時のことだ。30年前の田舎には、白のスーツでパンチパーマというわかりやすいチンピラがよくその辺にいたのである。
そのチンピラと母がすれ違った瞬間に、「おい!ジロジロ見てくんじゃねえや!」と、男が母に漫画みたいないちゃもんをつけてきた。
すぐさま母は振り返ってチンピラを睨み返し、いわゆるメンチの切り合いが始まった。母のただならぬ気迫にチンピラは根負けして、ブツブツ言いながら立ち去ったのだが、まるでサバンナの奥地で肉食動物が敵と出会った瞬間に張り詰める緊張感が走ったのを覚えている。
何事もなかったように、すたすたと前を歩く母の背中を見て、小学生だったわたしは無言で追いかけた。
「お母さん、何者何だろうか、、」と内心思いながら。
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