花を枯らせてしまうのだが


数年前、人生で一番やらないだろうという園芸に手をつけた。車をホームセンターまでぶっ飛ばし、園芸コーナーをしげしげと観察した。

比較的育てやすそうな、ゼラニウムとラベンダーを選んだ。
土肥など一通り購入し、家に帰って鉢に植える。

ーーー土を触り、緑に触れるって、なんだか満たされるーーー

ひとりにやにやしていると、お向かいのおばちゃんが「こんにちは」と声をかけてきた。
このおばちゃんは園芸好きで、あふれんばかりの花を育てている。家の前のスペースがちょっとした園芸店の一角と化すくらいに。

「まあちょっと見てやってください」と、おばちゃんに超初心者園芸模様をお見せした。

以前おばちゃんからいただいた白いゼラニウム。去年の咲きはイマイチだったが、今年の春にたくさん花をつけたゼラニウムを見て、「上手やなあ」と園芸のプロフェッショナルに褒められたのである。

「土の鉢は重くて使ってないから、好きなだけ使って」と、鉢も大量にもらった。

これで完全に火がついてしまった。
狂ったように花屋や園芸コーナーを物色しに走る。

そして毎朝、外に出て、植えた花を見て、うっとりするのだ。

やり出したはいいが、ハーブ系が順番に枯れていく。世話をすればするほど、枯れていく植物を前にして、呆然とする日々。

おばちゃんは言った。

「最初はたくさん枯らすわよ。でもそのうち、一つ一つわかってくるから、大丈夫」

多彩な植物を毎日世話をしながら、おばちゃんはいつも穏やかに植物を愛でていた。まるで植物と対話しているかのような佇まいが、祈りのようにも見えた。


それから数年後、おばちゃんの容態が悪くなり、入院したと聞いた。またその数ヶ月後、施設で亡くなったと知らされた。

その年、おばちゃんからいただいた白いゼラニウムは、青々と葉が生い茂り、今まで一番の花を咲かせた。満開の花を観て、穏やかなおばちゃんの顔を思い出す。

相変わらずいつも花を枯らしてしまうが、唯一このゼラニウムだけは今でも堂々と凛として庭で咲き誇っている。




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