ほんとはそれがしたかった


先日、先に風呂に入り息子を呼ぶと、はだかんぼで靴下だけを履いている姿で登場した。
ものすごく笑っている。

そのときの一瞬、靴下をはいたままお風呂に入っちゃおうかなあという彼の衝動を、わたしは見逃さなかった。

靴下を脱ぐのか?そのまま入るのか?どうするのだろうか?と、じいっと観察していると、息子は少し考えたあと、靴下を脱ごうとしたのだ。


「え?ほんとに?靴下をはいたまま、お風呂に入りたかったんじゃないの?」と、問いかけると、息子は一瞬真顔になって、そして顔をぱっと輝かせた。
「ええんや!」という顔である。

息子はおそるおそる靴下のまま風呂場に入り(心なしかつま先歩きで)、いざ浴槽につかる瞬間は、息を飲むかのごとく、そおっとつま先をつけた。

そして「おお!」という、歓喜の声をあげた。

「お母さん生まれてこのかた靴下はいたまま、お風呂入ったことないねん。どんな気分なん?」と、息子にインタビューしてみると、

「最高や!」と、満面の笑みで答えてくれたのである。
靴下はいて風呂入るだけでこんなに人って喜べるんだと、感心さえした。

風呂を出た後も陽気なテンションで過ごしていた息子。

そうか、未知の体験に足を踏み入れる時、男の子はとてつもなく、いい顔をするのだな、という母の気づきだった。


2018.2.14『もそっと笑う女』より


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