旅をすることは「充電」か~直島一人旅②~
旅行をしたり、おいしいものを食べたりして心身をリフレッシュさせることを「充電」する、なんていう。
金曜日の夜、岡山に降り立った私は、岡山駅近くのビジネスホテルに泊まった。
安さを重視して選んだホテルのフロントで渡されたのは、ホテルのキーにしては今時珍しい、カードではない普通の(調べたら「ディスクシリンダーキー」というらしい)鍵。
レバーではない丸いドアノブを捻ると、ちょっとおばけでも出そうな古宿だった。
少々値が張ったとしても、一人で泊まるときはおばけの出なさそうな宿を選ぶ。
この旅で私が得た教訓の一つだ。
とはいえ、シャワーを浴びたら寝るだけ。
早起きして宇野港へ向かい、船着き場へと向かう。
飛行機に乗って、電車に乗って、フェリーに乗るこの旅。
乗り物に特段詳しいわけではないが、いろんな種類の乗り物に乗るというのは、旅をしている感じがなんだか強い気がして、嬉しくなってしまう。
宇野港から直島の宮浦港までは20分ほど。
あこがれの島に降り立ち、かねてから行ってみたかった宿にチェックインした。
女性4人の相部屋。ドミトリータイプのゲストハウスに泊まるのは初めてだ。
相部屋になったのは、一人旅か男性用ドミトリーにパートナーが宿泊している人たちで、4人それぞれが初対面であった。
話の感じだと、3人とも中国語を話すらしい。
そのうち一人が私に気遣って、室温や部屋の明るさやらを英語で話しかけてくれるが、恥ずかしながら学生時代英語のテストで240人中238位をとった身。
ひとつも満足に聞き取れもしなければ話せもしない私に業を煮やしたのか、その後は私以外の2人と中国語で会話が広がっていく。
ちょっとホッとしている自分が情けない。
荷物を置いたら、さっそく島めぐりだ。
宿で自転車をレンタルしようとしたら、島の土地は起伏が激しいから、と電動自転車をおすすめされた。電動自転車、乗ったことがない。
おそるおそる漕ぎ出すと、想像以上のパワーで前へと進んでくれる。
なんだこれ、すごいぞ!
ペダルをひと漕ぎするごとに、
ぼうけんの はじまりだ!
と、RPGの主人公のように胸が高鳴る。
「島全体がアート」を謳うこの島には、そこかしこにオブジェなどのアートスポットがある。
直島の海と山と空のコントラストは、それだけでもう十分に芸術的なのだが、それでも自然いっぱいの島に、誰かが作ったオブジェがあるというこの光景は、すべてが絶妙にマッチしていて美しいなぁと思う。
アートスポットの一つに池があった。
ちょっと休憩しようかな、と自転車を降りて草むらに体操座りしてみる。
青空と、草木の緑と、それを反射して、ゆらゆら揺れる水面。
風の音、葉が擦れる音、夏だけどウグイスの声。
それしか見えない。
それしか聞こえない。
なんだろう、この感覚。
全身から悩みや、疲れや、すべての良くないものたちが解き放たれていく感じ。
浄化?デトックス?
例えるならば…「放電」という言葉がピッタリくる気がする。
都会の喧騒を離れて、なんてカッコつけたことを言うつもりはないけれど、こんなに身も心も解き放たれた状態でボーっとしたのは、初めてではないだろうか。
永遠にこの場所に座っていられる気がした。座っていたいと思った。
旅行をしたり、おいしいものを食べたりして心身をリフレッシュさせることを「充電」なんていう。
けれど間違いなく、私にとってこの旅は
「充電」ではなく
「放電」だった。
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