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[掌握小説]もっこちゃんの愛おしい毎日#1

もっこちゃんは今日もせっせこ干していく。

とってもよく晴れた朝9時過ぎ。

ジャブジャブ回した洗濯物を、手際よく干していく。

途中、かけているハンガー同士がぶつかりあって落下するたび思わず

「ああああぁーーーー!!」

まるでこの世の終わりのように心で叫んでいたけれど、それはもう慣れた。

「私の下着は真ん中に、のっぽさんのトランクスは外側に」

呪文のようにつぶやきながら、次から次へと靴下や下着をピンチに挟んでいく。

「できた!!」

今日はとっても風が強いから、飛ばされないように、ハンガーと服をピンチでしっかり止めておく。これ大事。

以前お出かけから戻ったら、あれこれ七年愛用のお気にいりズボンがハンガーからすっぽりといなくなっていたことがある。
幸いにも、ご近所のおテツさんが

「引っかかっていたわよー」

と、周りに我が家の洗濯物をアピールしながら持ってきてくれた。外面良くお礼を言い、もう一回他の洗濯物と一緒にじゃぶじゃぶ回し、干す時は、もう二度と飛ばされるな、恥をかかしてくれるなと言わんばかりに、ハンガーとズボンをピンチでガッチリ固定した。その時も思わず

「ギィーーーーーーー」

という謎の擬音がモッコちゃんの口から発せられているのだが、本人は無意識。


「♫テララテララテララララーララー♫」

つけっぱなしのテレビからいつもの音楽。

「あっ、はじまるはじまるー」

と、もっこちゃんは干す手を止めてヨッコラしょと座る。

「おはようございまーーっす!!」

大人気のお笑い芸人とミスコンでも受賞してそうな女子アナさんが、爽やか朗らかさで番組をバシバシ取り仕切っていくのが、見ていて何だか楽しい。まるで自分にもその能力が備わっているんじゃないのかと、自意識過剰な勘違いをよくよくしてしまう。それがもっこちゃん。

「今日のテーマは『花』です」

「花かーー・・」

誰に言われなくても、真剣に「花」にまつわる面白い話はないかと考える持っ子ちゃん。


「それでは元気よく!!ゴーゴーゴー!!」
「♪ピーピーピー♪」

「あっ、でけたでけた」

良いタイミングで洗濯機に呼ばれ、ヨッコラしょと立ち上がる。

パンパンに詰まったかごを両手に持って、よろけそうになっても。
ハンガー同士がぶつかって叫びそうになっても。
ピンチ同士が絡まって「ごえぇぇぇぇーーーー」となりそうな時でも。

もっこちゃんはそんなこれしきと、胸をピンと張って
今日もせっせこ干しつづける。


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