【掌握・ショート】本番
明るさの中にも緊張感を含んだ声がお風呂場から聞こえてきた。
「今日、先生におそわったの。」と嬉しそうに話してくれた娘を微笑ましく見守りながら、思い出すのはいつも生まれた時のこと。会社から飛び出すように帰ってきた自分の指を初めて握ってくれた。そして力強かった。
あんなに小さかった我が子が今こうしてひたむきに練習しているその姿に成長を噛み締める。
明日。いよいよこれまでの成果をお披露目する時が、きた。
朝6時55分。空が晴れ渡っている。
私はいつもの情報番組にチャンネルを合わせる。
「おはようございます」
最近になり、国民的人気アナウンサーの横で天気を伝えている姿が、やっと板についてきたようだ。
仏壇に手を合わせる。
母さん。今日も娘は頑張っているよ。
ふと、庭を見た。
どこからか入り込んだタヌキの親子が、水たまりの水を美味しそうに飲んでいる。
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