一人用朗読台本「春」

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以上、必ずご一読の上、楽しくお使いください。

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僕:男女どちらも可
時間(目安):(未測定)

【春】


 淡い薄桃色のシャワーが、この3年の悲喜交交を洗い流している。
 昨日までの僕と何も変わらないはずなのに、どうしてか、生まれ変わったみたいに心もとなかった。
 ふと、僕を呼ぶ声。見慣れた顔、聞きなれた声。
 ああ、お別れなんだと思うと、僕は漸くさみしかった。
 なんとか明るく、普通のお別れを言おうとした僕を遮って、君が言う。
 それは、空白も前置きもない、ただ声になって零れ落ちたみたいな言葉だった。
 幾許かの躊躇いと、限界を含んだ、優しげな音だった。
 驚きと、喜びと、びっくりと、衝撃で、小さな声が「あ」と出たけど、タイミングを逃したみたいにかすれてた。
 その瞬間、もう遅いのに、今気が付いたように口元に手を当てて、何も溢すまいとする君がおかしかった。
 
 だから僕は言った。
 それは、初めての、動機もない、ただ心に満ちて溢れ出したみたいな言葉だった。
 何億もの細胞を犠牲に燃やして、ふと産まれたような眩しさだった。
 
 その時僕の頭の中は、まるで初めて人類が創造したコンピュータみたいに単純で、いっぱいいっぱいに、ひどく健気に仕事をしていた。
 一方で心臓は、コンピュータは未だきっと知らない、動揺と感激と、熱い血液の激流で嵐みたいに揺れている。
 揺れている。
 
 それは空白も前置きもない、ただ声になって零れ落ちたみたいな言葉だった。
 幾許かの躊躇いと限界を含んだ、優しげな音だった。
 淡い薄桃色のシャワーが、この3年間の悲喜交交を忘れるなと笑っている。
 昨日までの僕と変わったことと言えば、そうだな。
 守りたいものが、今、ひとつ増えた。


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